TCFD提言に沿った開示
1. ガバナンス体制
当社グループは、「脱炭素社会に向けたエネルギー課題の解決」を重要な社会課題(マテリアリティ)の1つと認識しています。
マテリアリティへの取り組みは、サステナビリティ経営を事業面で具現化するものであり、当社グループはこれを推進することで、企業価値を向上させ中長期的な成長に繋げていきます。2021年10月1日付で新たに社長を議長として設置した「マテリアリティ推進会議」を年に2回開催し、マテリアリティの目標実現に向けた事業活動をフォローするとともに、事業部門へ必要な対応を指示します。
また、Chief Strategy Officer(CSO)を委員長とする「サステナビリティ委員会」は、当社ステークホルダーから求められるサステナビリティを巡る課題へ対処し、ESGの取り組みをさらに強化するためにコーポレートの各担当役員を委員として、議題に応じて事業部門の関係者を招集し、原則として年2回開催しています。TCFD提言に沿った分析はCSOが担当し、サステナビリティ委員会に報告しています。
各事業部門においては、気候変動に関するリスク/機会を経営計画策定の勘案要素として検討しています。
また、TCFD提言に沿った開示を含むサステナビリティ委員会の活動状況については、定期的に取締役会に報告しています。
2. 戦略(シナリオ分析)
(1)気候シナリオと戦略
当社グループは、2つの気候変動シナリオを設定し、2030年における各事業への影響を分析しました。
1つは、環境への影響を最小限とするため、2100年時点における世界の平均気温の上昇を、産業革命以前と比較して1.5℃以下に抑制しながら経済成長を目指す「気候変動政策厳格化により脱炭素を推進するシナリオ(脱炭素シナリオ)」です。
本シナリオは、温室効果ガスの排出に対して厳格な対策が導入され、社会全体が気候変動に取り組む世界を想定しています。シナリオの設定にあたっては、国際機関や日本政府の開示情報を参照しています(注1)。
本シナリオでは、気候変動による自然災害増加などの物理的リスクの発生を最小限に抑えつつ、環境規制の強化や炭素税の強化などの移行リスクへの対応を推進していく必要があると考えています。
- 1IEA Net Zero by 2050 - A Roadmap for the Global Energy Sector、IPCC第6次報告書 SSP1-1.9の気候影響、環境省や気象庁などの開示情報。
もう1つは、現状ベースで化石燃料をエネルギー主体として経済成長を目指す「気候変動政策が厳格化されず引き続き化石燃料に依存するシナリオ(化石燃料依存シナリオ)」で、2100年時点における世界の平均気温が、産業革命以前と比較して4.0℃上昇することが想定されるものです。
本シナリオは、温室効果ガスの排出に対する厳格な対策が導入されず、時間の経過とともに自然災害が激甚化、頻発化する世界を想定しています。シナリオの設定にあたっては、国際機関や日本政府の開示情報を参照しています(注2)。
- 2IPCC第6次報告書 SSP5-8.5シナリオ、環境省や気象庁などの開示情報。
(2)想定した気候シナリオにおける当社のリスクと機会
「脱炭素シナリオ」では、当社グループ共通の移行リスクとして、例えば炭素税などの規制が強化され、炭素排出に対するコストが大きく上昇することを想定しています。しかしながら、脱炭素化に対応した当社製品・技術の強みを生かすことで、事業機会も十分に存在するものと考えています。
一方、「化石燃料依存シナリオ」では、気候変動による物理的リスクが中心となります。
機会については、当シナリオにおいても、現在すでに各種環境規制を推進している先進諸国において今後、規制が緩和されることは想定しがたいことから、当社の脱炭素技術の優位性を提供することで事業機会が生じると考えています。
気候変動に関するリスク/機会は当社事業において重要な項目であると認識しており、今回詳細に検討したものです。
(3)分析対象の選定とリスク/機会影響度の判定
以下の基準で分析対象の事業を選定しました。
- 一定事業規模(概ね2,000億円)以上かつ、脱炭素化の影響を大きく受ける事業
- 現状の事業規模は小さいものの、今後、脱炭素化の影響を受けて大きな伸長が期待される事業
また、リスクと機会の影響度の判定にあたっては、2023年度末と2030年における事業利益の差を予測し、以下分類としました。
- 大: 事業利益への影響100億円以上
- 中: 事業利益への影響50億円以上100億円未満
- 小: 事業利益への影響50億円未満
(4)リスクと機会に対する戦略(シナリオ分析)
事業ドメイン別の分析(脱炭素シナリオ)
脱炭素シナリオを適用した場合に、各事業に対して2030年断面に発生するリスクと機会に関し、以下の通り分析しました。
リスク
- 世界的な電化への移行に従い、内燃機関に関連する製品・サービスである自動車用ターボチャージャ、エンジン式フォークリフトの需要減少や、カーボンニュートラル燃料への移行に伴いディーゼル燃料エンジンの需要減少が想定されます。
- 技術関連のリスクとして、水素ガスタービン等の新製品の開発遅れや、CO2回収装置における代替技術の出現が想定されます。
- 外部環境の影響として、化石燃料代替エネルギーとしての水素・アンモニアのサプライチェーン形成の遅れ、それに伴う新市場の立ち上がりの遅れが想定されます。
機会
- 新興国を含む全世界で脱炭素の流れが進行するなかでトランジション期間として、石炭やディーゼル燃料から天然ガスへの燃料転換が起こり、高効率ガスタービンコンバインドサイクルプラント(GTCC)や、ガスエンジンに対する需要増が見込まれます。
- カーボンニュートラル実現とエネルギー安定供給の両立に向け、日本国内においても「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、原子力については、「再稼働推進」、「次世代革新炉の開発・建設」、「既設炉活用(運転期間の延長)」、「燃料サイクル推進」を進め、原子力を最大限活用する方針が示されました。これを受け、既設PWR/BWRプラントの再稼働支援・特定重大事故等対処施設の設置や再稼働済プラントの保全に関する事業機会の拡大が想定されます。加えて、世界最高水準の安全性を実現する革新軽水炉(SRZ-1200)の新設/建替えプロジェクトなどによる事業機会の拡大が期待されます。
- 石炭火力発電設備におけるアンモニア混焼/専焼の需要取り込みや、バイオディーゼル対応のエンジン開発を進めています。
- CO2回収装置の事業伸長も大きいと考えます。法/税制度やCO2貯留地の整備が進む北米/欧州を中心に市場が先行拡大し、その他の地域でも制度の整備に従って成長が見込まれます。大規模プラントから中小型装置までの幅広いCO2回収のラインナップ拡充により、多様な産業分野への適用を拡大するとともに、遠隔監視やCO2利活用等のサービス提供によるビジネスの多角化を目指します。加えて、当社はCO2回収技術とガスタービンコンバインドサイクルプラント(GTCC)の両方を有する世界でも数少ないメーカーのひとつであり、多くの顧客ニーズに応えるソリューションの提供が可能です。
- CCUSバリューチェーンの構築に向け、CO2の回収のみならず輸送・転換利用・貯留といった技術を提供していきます。
- 水素関連の事業に関しては、水素ガスタービン、水素エンジン、燃料電池用電動コンプレッサの着実な開発を進めることに加えて、水素製造・貯蔵・輸送を含む水素エコシステムの実現に向けて貢献します。
- 様々な機械システムを同調・協調させる標準プラットフォームを開発中であり、機械システムの電化・知能化により最適運用を目指します。
- 世界のカーボンニュートラル化に備え、新事業創出も図っています。具体的には、北海道において洋上風力発電事業への投資を実施しているほか、容量市場(注)への参入を進めています。加えて、Sustainable Aviation Fuel(SAF)製造装置の開発にも取り組んでいます。
- 容量市場: 容量市場とは、実際に発電された電力量(kWh)を取引する 「卸電力市場」ではなく、将来の供給力(kW)を確保するための市場。将来の供給力(kW)を確保する目的で、日本では2024年から導入される。
(5)リスクと機会の分析: 事業ドメイン別の主要製品の分析結果
今回分析した製品事業のリスクと機会を一覧化しました。
リスクと機会の分析: 事業ドメイン別の主要製品の分析結果
2023年度末と2030年における事業利益の差を予測し、影響度を検討した
リスク
エナジー
種類 | 内容 | 影響度 | 対応 | |
GTCC | 技術 |
|
小 |
|
SPMI | - |
|
- | - |
原子力 | - |
|
- | - |
プラント・インフラ
種類 | 内容 | 影響度 | 対応 | |
CO2回収 | 技術 |
|
小 |
|
製鉄機械 | - |
|
- | - |
物流・冷熱・ドライブシステム
種類 | 内容 | 影響度 | 対応 | |
エンジン・ ターボチャージャ |
市場・顧客動向 |
|
中 |
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物流機器 | 市場・顧客動向 |
|
小 |
|
- リスクと機会の影響度の判定にあたっては、2023年度末と2030年の事業利益への影響を比較しており、石炭火力発電プラント需要減少と製鉄プラント需要の減少のリスクは2023年度(計画値)に織り込み済
機会
エナジー
種類 | 内容 | 影響度 | 活用の方向性 | |
GTCC | 市場・顧客動向 |
|
小 |
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SPMI | 市場・顧客動向 |
|
小 |
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原子力 | 政策・ 法制度の変更 市場・顧客動向 |
|
大 |
|
プラント・インフラ
種類 | 内容 | 影響度 | 活用の方向性 | |
CO2回収 | 政策・ 法制度の変更 市場・顧客動向 |
|
大 |
|
製鉄機械 | 市場・顧客動向 |
|
小 |
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物流・冷熱・ドライブシステム
種類 | 内容 | 影響度 | 活用の方向性 | |
エンジン・ ターボチャージャ |
市場・顧客動向 |
|
小 |
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物流機器 | 市場・顧客動向 |
|
小 |
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グループ共通で取り組むべきリスクの分析
移行リスク:炭素税等規制への対応コスト増(主に脱炭素シナリオ)
炭素税などのカーボンプライシング政策に関する世界の情勢をみると、日本を含めた先進国では経済的な負担が強化されるリスクがあると考えます。当社グループのScope1、2における地域別のCO2排出量は、日本国内での排出が7割以上を占め、将来的に日本でカーボンプライシングが強化された場合に経済的なインパクトが大きくなると認識しています。
このインパクトを軽減するために、当社グループは、省エネ促進と、脱炭素電源の導入を図り、自社技術を主体に全工場のカーボンニュートラル化を推進します。一例として高温ヒートポンプや、水素発電機器・CCUSの自社工場への導入を検討しています。
すでに、当社グループは広島県三原市に立地する工場をカーボンニュートラル達成に向けたパイロット工場として位置づけ、太陽光発電設備の導入を推進しています。
本取り組みで得られた知見、技術を活用し、お客様へのモデルケースとして実際にご覧いただける場を設定することで、新たなビジネスチャンスの創出にも取り組んでいきます。
物理的リスク:自然災害被災(両シナリオ)
化石燃料依存シナリオにおいて 「自然災害の増加、当社グループやパートナーの工場及び既納プラントの被災」など、将来的な自然災害の増加をリスクとして認識しています。
一方、脱炭素シナリオについて検討した場合においても、昨今の自然災害の被災実績に鑑みるとこれらのリスクは無視できないものと考えています。
従って、上記2つのシナリオ共通に自然災害による物理的リスク(風災・水災等)を想定します。
グローバルに展開する当社グループでは過去5年間において被災した災害件数のうち約9割が日本における被害となっており日本の拠点の被災リスクが最も高いことを特定しました。その原因は、主に台風・豪雨によるものです。
災害被害への対応準備としては、災害により機能不全に陥った場合の代替手段、バックアップ体制を規定した対応要領の定期的な見直し、社員・関係者の訓練などを徹底しています。
また、甚大災害頻発による保険料高騰や引受停止などのリスクを想定し、2021年度までに国内全工場を対象とした「リスクサーベイ」を実施しており、被災時の物損リスクを最小化すべく対応しています。
3. 指標と目標
(1)2040年 カーボンニュートラル宣言
当社グループは、2021年10月にカーボンニュートラル社会の実現に向けて、2つの新たな目標を策定し発表しています。
第一の目標は、当社グループのCO2排出量(Scope1,2(注1))を、2040年までにNet Zeroにすることです。また、その中間目標として、2030年までに50%削減(2014年比)します。 これは、生産活動に伴う当社グループの工場等からのCO2排出量の削減です。開発した技術を導入して、更なる省エネを推進することで、カーボンニュートラル工場を実現していきます。
- 1温室効果ガス(GHG)排出量の算定と報告の国際基準であるGHGプロトコルにおけるScope1,2
第二の目標は、バリューチェーン全体からのCO2排出量を、2040年までにNet Zeroにすることです。また、その中間目標として、2030年までに50%削減(2019年比)します。これは、主に当社グループの製品の使用によるお客様のCO2排出量(Scope3(注2))の削減に、CCUSの普及に伴う削減貢献分を加味したものです。
- 2温室効果ガス(GHG)排出量の算定と報告の国際基準であるGHGプロトコルにおけるScope3
(2)進捗状況
2030年のCO2削減中間目標に向けて、順調に進捗しており、2021年度末時点の実績値としてはScope1,2で約52万トン、Scope3で約15.8億トンになります。
なお、Scope3には合計15のカテゴリーがありますが、当社のScope3排出においては、製品の使用に伴うCO2排出(カテゴリー11)が99%程度を占めており、その削減を主要な取り組みとしています。今後は、他のカテゴリーに関しても計測の精緻化、削減を検討していきます。
(3)目標達成に向けたロードマップ
2030年は、2040年の当社カーボンニュートラル目標の中間地点であり、2030年目標の達成に向けて各種ソリューションを整備しています。カーボンニュートラル関連の研究開発・投融資を拡大し、2021年度から2030年に向けて総額2兆円規模の資金を投入します。
自社工場においては省エネを推進するとともに、合理的な電化に取り組みます。その上で、三原製作所の全電力需要を非化石化できる12MWの太陽光発電設備を導入、2023年度内に同製作所全体の使用電力すべてを脱炭素化するとともに、同製作所を関連技術やソリューション開発のフィールドとして活用していきます。
製品開発に関する取り組みでは、CO2回収装置のラインナップ拡充に取り組み、多数の実績を有する大型機種に加え、回収量300キロ/日以下の中小型機種も販売を開始しました。加えて、2030年代半ばの実用化を目標に、電力会社と協働で革新軽水炉(SRZ-1200)の開発を進めています。
また、「水素エコシステム」の構築に向け、2023年度に高砂製作所の既存発電実証設備に水素製造・貯蔵設備を追設し、「高砂水素パーク」の稼働を開始する計画です。この設備により、水素製造から発電までの技術を一貫して検証します。
4. リスク管理体制
各事業部門においては、移行リスクと物理的リスクを経営計画策定の勘案要素として検討しています。サステナビリティ委員会では、気候変動に関連する上記リスクと機会に関する検討結果を確認しています。
本内容も含め、サステナビリティ委員会の活動状況については、定期的に取締役会へ報告しています。