ページの先頭です。 ページの本文へ メインメニュー フッタへ
巨大な精密装置「加速器」 巨大な精密装置「加速器」

三菱重工グラフ(2012年10月発行)に掲載。加速器は現在、三菱重工機械システムが担当。

技術力[ 物流・産業 ]

巨大な精密装置「加速器」

光速に加速された粒子が科学の進化を解明

  • Linkedin

加速器を用いて宇宙や物質の起源を探り、質量の起源といわれるヒッグス粒子の性質を詳細に調べる国際リニアコライダー(以下、ILC)計画向けに開発中の「超伝導加速空洞」。希少金属である高純度ニオブ材で製造後、極低温(-271℃)に冷却して、空洞の電気抵抗を限りなくゼロにした「超伝導状態」にすることで高効率加速を実現。三菱重工は現在、日本で唯一のILC計画向け超伝導加速空洞製造の認定企業となっています。

  • 上部写真:超伝導加速空洞〔広島県・三原製作所〕

宇宙の起源、森羅万象の謎を解き明かす、革新的な装置

重力はどのように発生し、宇宙とはいかなる存在なのか――。古くはガリレオをはじめ、アインシュタインといった研究者たちが追い求めた科学の謎の根源を解明し、現代の科学技術の発展に大きく貢献する革新的な装置、それが「加速器」です。
大きなもので全長が数十キロにもおよび、その役割は、電子や陽子などの電気を帯びた粒子に高周波電力を与え、光速に限りなく近いスピードにまで加速することにあります。きわめて高速かつ高エネルギー状態になった粒子どうしを衝突させ、その様子を研究することで、物理の法則の検証などに役立てることが可能に。たとえば、宇宙の起源は、約137億年前のビッグバンによるものと考えられていますが、加速器を使って、ビッグバン直後の素粒子だけが飛び回っていたときの宇宙の状態を再現できれば、その起源を知る大きな手がかりになります。
また、高速に加速した電子の軌道を曲げることで、X線のような極めて波長の短い光が放射されます。この放射光を活用すれば、光合成のメカニズムなど、従来の顕微鏡では捉えられないナノレベルの現象を観察し解明できる可能性も広がります。最近では、放射光を使った研究の成果が身近なものにも活かされており、タンパク質の立体構造の解析により誕生した、新たな機能・効能を加えた医薬品などはその一例です。 加速器は、われわれの日常の営みにも、さまざまな恩恵をもたらしてくれる存在でもあるのです。

世界トップレベルの日本の加速器開発とともに進化

三菱重工の加速器事業のスタートは1960年代初頭、日本の加速器開発の黎明期にさかのぼります。加速器の製造に欠かせない非鉄金属の精密加工技術を、当時すでに航空機部品の製造で社内に保有していたことが事業の礎となりました。以来、三菱重工は国内のほとんどの大型加速器プロジェクトに参画し、研究者や研究機関の信頼を得ながら、技術を磨いてきました。
今では加速器の主要機器で、電子・陽子などの粒子を光速近くまで加速する「加速管」や「加速空洞」、これらに高出力のマイクロ波を導入する「導波管」や「高周波窓」、加速した粒子の通路となる「真空ビームチェンバー」、粒子の軌道を小刻みに曲げて強力な放射光を発生させる「周期磁場発生装置」などの周辺機器まで、設計・製造を広く行っています。
日本の素粒子研究は、ノーベル賞受賞者17名のうち5名が素粒子にまつわる研究での受賞者で占めるほど卓越しており、その素粒子研究に三菱重工は加速器技術で貢献しています。2008年のノーベル物理学賞に輝いた「CP対称性の破れを予言した小林・益川理論」の実証には、高エネルギー加速器研究機構(以下KEK)の「KEKB加速器(電子ー陽電子衝突型加速器)が使われました。ここでも三菱重工は「入射用加速器」、「真空ビームチェンバー」、「常伝導ARES空洞」、「超伝導クラブ空洞」の設計・製造を担当し、受賞に貢献しました。
50年以上にわたって三菱重工の加速器は、研究者の成果を陰で支え続けてきました。またこれからも、人類や社会のために科学技術を探求・追求する研究者たちの夢を、あつい情熱で支えていきます。

研究者が求める仕様・性能を形に、そこで培われてきた加速器技術

粒子を加速する空洞の電気抵抗を、限りなくゼロに近づける(超伝導化する)ことで高効率化を実現する「超伝導加速空洞」。加速周波数を2倍にすることで従来と同じ加速性能を、約半分の長さで実現した「常伝導Cバンド加速管」など、三菱重工は、世界からも注目される加速器製品を数多く生み出してきました。
これらの加速器関連機器は、研究者が求める仕様・性能を形にするために、極めて困難な要求にも果敢にチャレンジしてきた、たゆまぬ努力の結晶なのです。

写真:チョークモード型Cバンド加速管
写真:X線自由電子レーザー施設「SACLA」

X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」(写真右側:囲み部)の心臓部である、三菱重工製「チョークモード型Cバンド加速管」(写真左側)。X線自由電子レーザーでは100台以上の加速管を直線状に配列するため長尺化しがちですが、欧米の同種施設に比べて長さが約1/2というコンパクトさを実現。これには、従来の「Sバンド加速管」の約半分の加速管長を実現した、三菱重工製の「Cバンド加速管」が大いに貢献しています。
〔兵庫県・独立行政法人 理化学研究所 播磨研究所〕

写真:超伝導加速空洞

「超伝導加速空洞」は、1980年代後半に「KEK」が未知の素粒子(トップクォーク)を探索するために建設した「TRISTAN加速器」向け超伝導空洞で世界に先駆けて採用。三菱重工が設計・製造を担当しました。その技術は、KEKB加速器向け「超伝導クラブ空洞」や、このILC計画向け「超伝導加速空洞」に受け継がれています。全長約40キロメートルにもおよぶILC計画の加速器では、合計約16,000台の空洞が必要です。

写真:大強度陽子加速器施設「J-PARC」向け「ACS加速空洞」
大強度陽子加速器施設「J-PARC」向け「ACS加速空洞」。J-PARCでは、高エネルギーの陽子ビームを水銀や炭素などのターゲットに照射して、発生した中性子を用いて素粒子物理や物質科学、生命科学などの研究を広く行っています。入射用「陽子加速器」の加速エネルギーを現状の2倍以上に増強する、世界初のACS(環状結合構造)と呼ばれる特殊構造の加速空洞は、三菱重工で量産しています。

超精密加工、精密測定技術などの粋を集めた総合工学技術の結晶体

設計図や手順書が存在しても、加速器製品の製造は極めて困難です。それは大電力の高周波を投入する一方で、共振周波数を保つため、構成部品のすべてに高精度・高清浄度が要求されるからです。
高純度の無酸素銅をミクロン(1/1,000ミリメートル)レベルの精度で仕上げる超精密加工、加工部品を清浄な環境の下で、高精度で接合する真空ロウ付けや電子ビーム溶接、共振周波数の精密計測とチューニング作業など、幅広い工学技術と豊富な経験則を動員し、ようやく完成に至る製品なのです。

写真:超精密旋盤によって仕上げ加工されたセル部品
[写真左側]超精密旋盤によって仕上げ加工され、鏡面となり美しく輝くセル部品(ディスク)。表面の粗度は髪の毛の太さの約1/100ほどの、サブミクロン(1/10,000ミリメートル)レべルです。
[写真右側]超精密加工後の無酸素銅セル部品(ワッシャー)表面の2本の溝には、ロウ材(金または銀の合金)がセットされます。
写真:超精密旋盤によって最終仕上げが行われている風景。
超精密旋盤による「常伝導加速管」を構成するセル部品(ワッシャー)の最終仕上げ。高純度の無酸素銅材を、ダイヤモンド製の刃で薄皮をむくように削ります。
写真:大型真空炉
セル部品のディスクとワッシャーを約90個、筒状に重ねて大型真空炉に入れ、900度近くまで加熱。セルの間にセットしたロウ材のみが溶け、セルが接合されます。
写真:真空炉の中でロウ付けし、一体化した「常伝導Sバンド加速管」
真空炉の中でロウ付けし、一体化した「常伝導Sバンド加速管」。高温接合時に銅は軟化してわずかにゆがむため、炉出し後、ゆがみ量の計測や補正が行われます。
写真:電子ビーム溶接機
電子ビーム溶接機の中で「超伝導加速空洞」を構成するお椀型のセル部品が、精密に溶接されていく様子をモニターで監視。装置内は真空状態に保たれ、不純物の混入を抑制。セルそのものを溶解して接合するため、素材の純度を保ちながら溶接できます。
写真:3次元計測器により、細かに寸法がチェックされる「陽子加速器」の構成部品。
三次元計測器により、詳細に寸法がチェックされる「陽子加速器」の構成部品。精密加工・精密組立が求められる「常伝導加速器」の部品製造では、ほぼ全部品に三次元計測を実施し、厳正な出荷判定を行います。
写真:「カプラー部」の共振周波数が、高周波測定装置を用いて計測される。

加速管内へ大出力の高周波を投入する「カプラー部」の共振周波数が、高周波測定装置を用いて計測されます。わずかでも周波数の誤差がある場合には超精密旋盤を使い、ミクロン単位で修正加工を施し、チューニングと修正加工が繰り返されます。

加速器がもたらす無限の夢を、広く世界へ、つぎの世代へ

加速器の国家プロジェクトに参画する日本企業の中でも、つねに中心的役割を担ってきた三菱重工。その実績と技術力を活かす場は、世界に広がっています。今後は、「CERN(欧州原子核研究機構)」のヒッグス粒子とみられる新粒子の発見で注目度が高まってきたILC計画をはじめ、放射光の利用研究を本格化する台湾や韓国でのプロジェクトへの参画など、グローバルに事業を展開していく計画です。また、研究分野以外でも、医療分野における加速器活用の有効性に着目。「常伝導Cバンド加速管」をさらに小型化して搭載したX線がん治療機器「Vero 4DRT」の拡販や、産学官共同による中性子捕捉療法(BNCT)用「小型陽子加速器」の開発に取り組んでいます。国や世代をも越える壮大なスケールで、人類に貢献する可能性を秘めた加速器。その次なる進化へ向けた三菱重工の挑戦は、未来へつづきます。

写真:X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」
今年から本格的な運転が始まったX線自由電子レーザー施設「SACLA」。全長約700メートルにおよぶこの巨大な施設で、従来は観察できなかった原子・分子レベルの動きが観察でき、日本の科学技術の発展にも大きく寄与する施設として、各界から大きな期待が寄せられています。
〔兵庫県・独立行政法人 理化学研究所播磨研究所〕

三菱重工が製造した主な加速器製品と納入先

  • 一部は製造中です

超伝導加速空洞

ILC/国際リニアコライダー向け研究開発(高エネルギー加速器研究機構〔KEK〕)
超高エネルギーの電子・陽電子を衝突させ、「CERN」がLHCで発見したヒッグス粒子とみられる新粒子の特性を詳細に調査する国際プロジェクト。日本では「KEK」が中心となって研究開発を実施中。三菱重工は、電子・陽電子を加速する「超伝導加速空洞」の製造を担当すべく準備を進めています。
台湾放射光施設 (台湾国家同歩輻射研究中心〔NSRRC〕)
台湾で唯一の高輝度放射光施設。現在、放射光リングをアップグレード。その後に放射光リングに設置する「超伝導加速空洞」3台を三菱重工にて製作中です。

超伝導クラブ空洞

KEKB (高エネルギー加速器研究機構〔KEK〕)
高エネルギーの電子・陽電子を衝突させ、大量のB中間子・反B中間子を生成する「KEKB加速器」のメインリングに設置。「クラブ空洞」と呼ばれる特殊な「超伝導空洞」を通過させることで、ビームを適切に傾け、世界最高のビーム衝突頻度を達成しました。

常伝導Cバンド加速管

SACLA (理化学研究所)
電子を加速して「アンジュレータ」と呼ばれる周期磁場に入射して発生させた高強度・短波長のX線自由電子レーザーにより、原子レベルの動きを観察。膜タンパク質の構造解析など基礎研究から応用分野まで活用が期待されます。SACLAの主加速器として三菱重工製の「チョークモード型Cバンド加速管」が採用され、施設の小型化と安定的な運転に貢献します。

常伝導Sバンド加速管

SPring-8 (理化学研究所)
ナノテクノロジーやバイオ技術、産業利用などの研究を行う世界最高エネルギー8GeVの大型放射光施設。X線やガンマ線、赤外線まで、幅広い放射光を発生可能。放射光リングへ入射する電子を加速する1.5GeV入射器に、三菱重工製の「Sバンド加速管」が採用されています。
浦項加速器研究所X線自由電子レーザー計画 (浦項加速器研究所〔PAL〕)
韓国で唯一の高輝度放射光施設に併設されるX線自由電子レーザー計画。計画を開始したばかりですが、その主加速器の第一ロット分に三菱重工製のSバンド加速管が採用されました。

陽子加速器(DTL、SDTL、RFQ、ACS加速空洞)

J-PARC (高エネルギー加速器研究機構〔KEK〕/日本原子力研究開発機構)
世界最高クラスの陽子ビームを生成する「大強度陽子加速器」施設。陽子ビームをターゲットに入射して生成した中性子、ミュオン、K中間子、ニュートリノを利用し、素粒子物理や物質科学、生命科学などの研究を行います。三菱重工は入射用「陽子加速器」のDTL、SDTLと呼ばれる加速器部分を担当しています。
J-PARC (高エネルギー加速器研究機構〔KEK〕/日本原子力研究開発機構)
三菱重工は入射用「陽子加速器」後段のエネルギー増強用として「ACS加速空洞」モジュールを製作中です。

関連記事