

三菱重工グラフ(2011年11月発行)に掲載
シンガポールの電力安定供給に貢献するGTCC
高稼働率保証のLTSAをバネに
自由化で生産性の向上を

電力は産業や生活の基盤であり、安定供給が不可欠ですが、欧米を中心に「この分野でも市場を自由化し、生産性を向上させよう」という動きが起きたのは20世紀末のことです。ユーザーはより安く、安定した電力供給を求め、供給側はつねにそのニーズに応える必要があります。また、低炭素社会実現のため、化石燃料の高効率な活用や再生可能エネルギーの開発へ拍車をかけました。
電力自由化という世界の趨勢に素早く対応した国のひとつ、シンガポールは、1995年10月に民営化に踏み切り、2003年1月に全国電力市場(NEMS)での取引を開始しました。シンガポールの電力の特徴は「エネルギー源別では、現在、天然ガスが80パーセント、2014年には90パーセントに上るだろう」とされていることです。シンガポールは周辺国に天然ガス産出国が多いことのほか、観光を主要産業として、環境重視の政策を展開していることも、クリーンな天然ガスを主軸としたエネルギー構成になっている理由だとみられます。
そのシンガポールの電力会社で活躍する発電設備が、三菱重工のGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電)です。これは、まずガスタービンで発電し、さらにその排熱を利用して蒸気タービンで発電するという、エネルギーを極限まで有効利用するシステム。簡単にいえば「一粒で二度おいしい」ことですが、三菱重工はこの発電設備をシンガポールの三大電力会社のひとつ、チュアス・パワー社に2001年以降4基納入。いずれも出力は36万キロワットです。
タービンの状況を遠隔監視
三菱重工は、チュアス・パワー社に発電設備を納入するだけでなく、定期検査などを請け負うことで設備の高稼働率を保証する長期契約、LTSA(ロング・ターム・サービス・アグリーメント)を提供。いわば、ハード(設備機器)とソフト(運転管理)をパッケージにしたビジネスモデルを提供しています。その根底には「電力は安定供給が第一なため、その実現を支援したい」という熱い想いと、それを具体化した遠隔監視技術、RMS(リモート・モニタリング・システム)の開発がありました。
RMSでは、ICT(情報通信技術)を活用し、ガスタービン1基につき約2,000点のデータを採取し、主要な150項目以上のデータを5分周期で自動診断しています。トラブルの予兆発見のためですが、現在、三菱重工は、日本と米国に設置したRMC(リモート・モニタリング・センター)で、LTSAの対象となる世界中のガスタービンを24時間365日、遠隔監視。チュアス・パワー社は「欧米にもガスタービンのメーカーはあり、顧客満足度の向上に力を入れてはいるが、ここまで徹底したサービスを展開しているところはない」と語るとともに「三菱重工のGTCCは、年平均99パーセント以上もの高い稼働率を見せている。これにはRMSが寄与しており、故障による運転停止という事態を予防できている」とも。また、「GTCCは従来の石油火力に比較して約20パーセントエネルギー効率が良い」と評価しました。自由化された市場で電力会社が勝ち抜くためには、エネルギー原単位当たりの出力増大という効率向上や、設備や燃料の費用低減が有効な方法ですが、GTCCとLTSAは、それらの意味でもチュアス・パワー社に貢献しています。

環境保全と経営効率の両立

社会に電力を安定供給するためには、発電設備の効率的な運転はもとより、燃料の確保や需要のあるところへ的確に送電することも不可欠です。三菱重工はRMSを活用することで「タービンの運転状況だけでなく、燃料や送電など周辺部分にまで目配りし、気になる動きが出ればすぐに通報し、対策を取るように求めています」。これは、日本の美徳ともいえる「おもてなしの精神」に基づいた仕組みで、欧米などの電力会社から「この行き届いたサービスが、効率的な運転や信頼性の獲得につながっている」と評価されています。
チュアス・パワー社に納入したガスタービンは燃焼温度が1,350℃級のものですが、三菱重工では、すでに1,500℃級を実用化、さらに1,600℃級も市場に送り出せる段階にあります。燃焼温度の上昇はエネルギー効率の向上に直結するため、進化したGTCCはますます電力会社の効率経営を支援するとともに、世界的な資源の有効利用も促進。また、CO2などの排出量を低減し、地球環境問題の解決に役立つ効果もあるのです。その意味でも三菱重工には、GTCCとLTSAを組み合わせたビジネスモデルを世界に浸透させることが強く求められています。