

三菱重工グラフ(2012年4月発行)に掲載
レシプロエンジン
‐その真価と進化‐
文明の発展を支えたエンジンは、常に時代の原動力に
20世紀以降、近代文明は急激な進化を遂げました。その大きな契機となったのが「エンジン」の発明です。
機械や乗り物を動かし、ものを生産する動力源として。さらには電力をつくりだす発電機の心臓部として。そして今なお快適な市民生活や産業活動を支える原動力として、進化しつづけています。
1917年、日本企業で初めてディーゼルエンジンを開発・製造した三菱重工は、以来、ひたむきにレシプロエンジン(注1)の技術を開拓し、建設機械や船舶のエンジンから発電用エンジンまで幅広くラインアップ。
近年は先進のガスタービンやロケットエンジンなどの内燃機関を全般的に手がける中、古くから携わってきたレシプロエンジンの真価を見つめ、さらなる可能性を追求しています。
- 1ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなど、燃料の燃焼エネルギーをピストンを使って回転エネルギーに変換する内燃機関。同じ内燃機関でも、「連続燃焼」を行うガスタービンやジェットエンジン、ロケットエンジンなどに対し、断続的に燃焼を繰り返す「間欠燃焼」を行う点が特徴。
社会の営みを支える動力を、広く、深く、至るところに
レシプロエンジンの活躍の場は広範囲に及びます。移動・輸送をかなえる船や自動車、建設・農作業を支える建設機械や農業機械 、荷役作業を担うフォークリフト、工場やビルなどの施設や地域の暮らしに必要な電力を供給する発電設備など、あらゆるところで逞しい力を発揮。三菱重工はこれら全域(注2)のエンジン製造に携わる、世界でもまれな存在です。大量生産に応える小型エンジンから、オーダーメイドに対応しながらもモジュール化による高効率生産を実現する中・大型エンジンに至るまで。その圧倒的な製品レンジで、顧客のあらゆる要求にお応えしています。
- 2自動車エンジンの分野では、エンジンバルブを開発・製造





キリンビール(株)の横浜工場に設置されたガスエンジン・コージェネレーション(注3)プラント(18KU30GA〔5,750キロワット〕×3台)。高負荷での連続運転を強いられる常用発電設備にふさわしい、高効率で信頼性が高く、環境に配慮したエンジンだ。発電した電力はビールの生産設備を稼働させ、余剰分は地域向けに送り出される。また発電時の排熱を利用してつくられる温水や蒸気は、容器洗浄などの設備で使われる。 〔神奈川県・キリンビール(株)横浜工場〕
- 3コージェネレーション:発電時に生じる排熱を利用して蒸気や温水、冷水などを同時に供給する設備。エネルギーの有効活用によるCO2削減効果も期待できる。



充実した開発環境、妥協のない生産技術が生む、会心のエンジン
三菱重工にはエンジンの品質を支える理想の環境があります。開発・研究部門と、製造工場が同じ拠点に共存しているため、製造現場からの意見を速やかにフィードバック。また敷地内に実証施設があることで机上のシミュレーションだけでは見えない、活用する側の目線に立ったトライ&エラーが可能で、それらがエンジンの完成度を究めるうえで、重要な役割を果たします。さらに、保有する全製品技術の情報を蓄積する研究所と連携。さまざまな種類のエンジンについて、最新の要素技術や生産技術を共有できる環境も、時代をリードするエンジン開発を目指すうえで、大きなアドバンテージとなります。






二千万馬力、その力は、世代を、国境を越えて

西アフリカ・セネガル(ダカール近郊)の発電プラント。横浜製作所で製造されたディーゼルエンジン(18KU30B×9台)が生み出す電気は、電力網を通じ市民生活を至るところで支えている。その発電量は、同国の約25万世帯分の消費電力に相当。同発電所は三菱重工の欧州拠点(MHI Equipment Europe B.V.)が運営しており、日本や欧州から運転・保守指導のためにエンジニアを定期的に派遣し、発電所の安定稼働をサポートしている。 〔セネガル共和国・Kounoune Power Plant〕
世界を舞台に活躍する、三菱重工製エンジン
三菱重工はレシプロエンジンだけで年間約65万台・約60種類(総出力:約2,000万馬力)を手がける、国内有数のエンジンメーカーでもあります。重・軽油、ガス、ガソリンに対応するエンジンをそろえ、コージェネレーションシステムや舶用推進システムなど、エンジンを中心に多様なシステムを供給できるのが特長です。 また、世界市場における現地ニーズへの迅速な対応やエンジニアリングサポートの充実化、調達・輸送費の削減を図るため、北南米、欧州、アジア、中東、アフリカの各地域に生産・販売・サービス拠点を広げています。さらに海外現地企業へのライセンス供与を積極化。地域の特性に合わせた多様なビジネスモデルを展開しつつも、自社国内生産品と同一の高品質なエンジンを、短納期・低コストでグローバル市場へ届ける努力を続けています。
厳格化する環境規制に、いち早く、広く対応

エンジン製造で長い歴史を持つ三菱重工は、環境性能の向上にも早い段階から取り組んできました。背景には、低燃費ニーズや排出ガス、CO2、NOx、粒子状物質(PM)に関する規制強化が広がり、対応できるエンジンを求める気運の高まりがあります。環境対応技術を得意とする三菱重工では、IMONOx規制(注4)を遵守し、世界最高水準の低燃費を実現する「UEC Eco-Engine」を開発・製造。排出ガス規制強化に伴い電子制御化が進む中、SRシリーズなどの舶用EPA Tier3(注5)対応では市場の要望に応える機械式噴射系システムを採用。現場で取扱い容易な機械式機構でかつ厳しい排出ガス規制をクリアしました。 産業機械用エンジンの分野では世界一厳しい排出ガス規制EPA Tier4(注5)が順次スタートしていますが、基準をクリアする製品(D04EG)もいち早く開発し、規制開始に合わせて受注、生産を開始。今後もより高度な環境対応エンジンの開発を積極化する予定です。
- 4IMO(国際海事機関)にて採択された段階的な排出ガス規制。ディーゼル機関を搭載する船舶は公海を航行する際、本規制を満たす必要があるため、舶用分野における世界標準とされている。特に、NOx排出規制は2000年から段階的に引き上げられ、現在はTier2の段階にある。2016年以降、Tier1規制値(2000~2010年)に対し80パーセント削減させるTier3が発効する予定。
- 5EPA(米国環境保護庁)にて制定された段階的な排出ガス規制。ディーゼル機関を搭載する建設機械・産業機械・船舶は各国地域ごとに制定された排出ガス規制を満たす必要がある。北米においてはEPAが排出ガス規制を制定。現在EPAでは4次規制(Tier4規制)へ移行中である。2014年以降、現在の規制値に対し、NOxを90パーセント削減させる規制が発効する予定。
広がるエンジン・ニーズに、あらゆる提案力を
一方で、多くの新興国では電力不足が深刻化。地理的・経済的な理由から大規模な発電所の設置が難しい国や地域では、安定的な電力供給を可能にする分散型発電システムの需要が高まりつつあります。こうした中、エンジンによる発電システムが、効率のよさや信頼性の高さから評価され、納入数を確実に伸ばしています。また、それらは東日本大震災以降の国内でも、非常時の電力確保を求める企業にとって有効な手立てとなりました。早急の設置が迫られる中、パッケージ化による短納期化に総力を挙げて取り組むことで、5,000キロワットクラスの発電設備ながら、約5カ月(通常納期は約1年)で納入。1,500キロワットクラスでは、現地での据え付け工事をさらに短期間で完了できる製品も開発中です。 米国など、新たなエネルギーリソースとして注目されるシェールガスの産出国では、豊富で安価なガスを用いた分散型発電への関心が高く、エンジンは活躍の場をさらに広げることでしょう。 ニーズが多様化する中、三菱重工には広範な製品群と技術力、グループシナジーを発揮し、最良のソリューションを提供できる基盤があります。 初めてのエンジン開発からほぼ1世紀。豊富な経験に基づく信頼性と、時代をリードする先進性をより高め、社会の原動力としてのエンジンの可能性を、さらに追い求めていきます。
