#054 レポロ テビタ『まだ、夢の途中』

『ディー』というニックネームの由来は、トンガ語のファーストネームであるテビタ(Tevita)が英語のデイヴィッド(David)にあたることから。トンガにルーツを持つニュージーランド生まれのレポロ テビタは、小さい頃からその頭文字をとった『D』の愛称で親しまれ、南オークランドの自然豊かな環境で育った。

かのジョナ・ロムーを輩出したラグビーの名門、ウェスリーカレッジに学び、インパクト抜群のペネトレーターとして活躍。ニュージーランドの複数の強豪チームからオファーを受ける中、卒業後の進路には日本の山梨学院大学を選ぶ。2019年のワールドカップで日本代表の中核をなしたラファエレ ティモシーをはじめ多くの海外出身の好選手を世に送り出してきた同大学におけるラグビー留学生の第1号、つまりパイオニアとしての来日だった。

「日本は古い歴史と独特の文化がある国で、それを学びたいと思って日本を選びました。ウェスリーはファーム(農村)の地域にあって、牛の乳搾りなどをやっていた。ヤマナシも同じような田舎だったので、生活はまったく問題なかったですね(笑)。当時のヤマナシのラグビー部は先輩後輩の上下関係が結構厳しくて、朝早くからグラウンド整備をしたり大変なこともあったけど、ウェスリーもアーミーの影響が強い学校で同じように厳しい規則があったから、スムーズに馴染むことができました」

在学中にU21日本代表入りを果たし、ATQ(Advance To the Quarterfinal、W杯8強入りに向けた日本代表の強化プロジェクト)強化指定選手にも選ばれた。その時のメンバーリストには、五郎丸歩や山中亮平らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。関東大学リーグ戦で長く1部から遠ざかる山梨学院大からの選出は、抜擢といってよかった。

たとえ2部でも努力していれば人は見ていてくれる。何より自分の力で、壁を破りきれないチームをトップレベルに引き上げたい。多くのトップリーグクラブからも誘いを受ける中、当時トップイーストの三菱重工相模原ダイナボアーズを選んだのは、そうした理由からだった。

「ヤマナシもミツビシも同じ2部のチームで、僕が入ってトップリーグに昇格させたいという気持ちが強かった。大和田さん(祐司)、椚さん(露輝)と山梨出身の先輩がいたし、ニュージーランド時代からの友人であるデイビッド・ミロがいたことも、ミツビシを選ぶ理由になりました」

2010年にダイナボアーズの一員となり、今年で11シーズン目を迎えた。今や外国人選手ではダントツの古株で、日本人選手を含めてもSH西舘健太、FB/SO阿久田健策、LO/FL徳田亮真に次ぐ在籍年数を数える。その間、チームがプロフェッショナルな集団へと変貌を遂げ、トップリーグ昇格を果たすまでの過程を、当事者として目の当たりにしてきた。ちなみに2015年に日本国籍を取得しており、今回のインタビューは通訳を介さずすべて日本語で行っている。

「入って最初の3年くらいは、まだミツビシはセミプロでした。当時は社員選手が多くて、ラグビー以外の部分も含めて彼らからたくさんのことを勉強しました。ラグビーのレベルはトップクラスではなかったけれど、あの3年が自分にとってはすごく大事な時期だった。そういう経験をしてきたから、トップリーグに上がれた時は本当にうれしかったし、人生の目標を達成したという気分でした」

長年の悲願を叶え、ついに立ったトップリーグの舞台。さすが国内最高峰、その戦いの厳しさは格別だった。「パナソニック、ヤマハと試合をしてみて、まだまだウチらのレベルはそこに足りていないと感じました」。一方で、その2チーム以外の相手には互角といえる戦いを演じ、第5節NEC戦ではトップリーグにおけるチーム初勝利を挙げるなど、手応えをつかんだのも確かだった。

「NEC戦はすごく自信になったし、NTTドコモ、キヤノン、東芝戦もあとちょっとだった。がんばればそういうチームにも手が届くという気持ちを、僕だけじゃなくチームのみんなが感じた。コロナでシーズン途中で終わってしまったのは残念だったけど、今年はさらにレベルアップできると思います」

決して手の届かない相手ではない。何より自分たちはもっともっとやれる。そうした実感が選手一人ひとりの向上心と責任感につながり、普段の練習からグラウンドの空気が変わった。誰もが試合に出たいという思いを強く抱くことでチーム内競争が活性化され、それが全体のレベルアップにつながるという好循環も生まれている。

新たに加わったメンバーたちが与えてくれる刺激も大きい。とりわけ元オールブラックス でワールドカップで2度優勝チームの一員となったSOコリン・スレイドと、パナソニック、神戸製鋼でトップリーグ優勝を果たしているSHイーリ ニコラスが、様々な面でいい影響をもたらしてくれていると話す。

「スレイドは世界の経験、イーリもトップリーグの豊富な経験があります。2人が加わったことでチームのシステムがよりスムーズに回るようになったし、勝つマインドをみんなに伝えてくれることで、どんどんレベルアップしている。2人はコーチに対してもしっかり意見ができるので、そういう点でも若い選手たちのお手本になっています」

33歳となった現在も、自慢の爆発的な縦突破は健在だ。他のメンバーとの兼ね合いから主戦場はWTBになりそうだが、強みのランに加え、CTBで培った周囲に情報を伝達するコミュニケーション力でもチームに貢献したいと意気込みを口にする。

「外からのコールがあることで、SOやCTBがプレーしやすくなる。またミツビシは外国人選手が多いので、僕が日本人選手との間に入って両方をつなぐことで、お互いの良さを引き出す。そのために、たくさんコミュニケーションをとることを意識しています」

ダイナボアーズでの長い選手生活を通じて、いかに自分たちが多くのファンとサポーターに支えられているかをひしひしと感じてきた。コロナ禍によるシーズン途中での中止とその後の空白期間で1年近く公式戦から離れているからこそ、1日も早く自分たちのプレーを見て楽しんでもらいたいという気持ちは強い。

「これまでミツビシのジャーニーを一緒に歩んできてくれたファンの皆さんには、本当に感謝しています。パワフルにゲインラインを突破するプレー、トライを取るプレーが僕の持ち味ですが、一番見せたいのは、ミツビシの勝利。そのために今、チーム全員でできる限りの準備に取り組んでいます」

入団時に心に誓った目標のひとつは達成した。ただし、それはゴールではない。ダイナボアーズとレポロ テビタの夢は続く。

Published: 2021.03.08
(取材・文:直江光信)