#021 比果 義稀『僕の生きる道。』

入社4年目の25歳。プレーヤーとしても、社会人としても、まさにここから真価を問われる年代と言っていいだろう。今後数年をいかに過ごすかによって、その先の人生が決まる。大変ではあるけれど、それゆえに走り抜いたあとの充実も大きいはずだ。

2017年の前半が終わりに差し掛かった6月下旬。FL比果義稀は、社会人4回目の春シーズンを終えての心境をこう表現した。

「1年目の頃はどういう生活をすればいいのかわからずアタフタしていましたが、今ではすっかり生活のリズムも固まりました。チームの考え方も年を追うごとにわかってきて、動きやすくなったのは確かです。チームに関しては、年を重ねるごとに練習に緊張感が出てきたと思います。以前ならミスが起こっても指摘する人が少なかったけど、今はミスをしてはいけないというシビアな雰囲気ができている。いいチームになってきたな、と感じます」

5年連続の入替戦敗退に終わった昨季を振り返り、佐藤喬輔監督が最大の課題として挙げたのが、まさしくそうした部分の厳しさを突き詰められなかった点だった。日々の練習から意識を高め、鍛錬を積み重ねていくことでしか、その課題は克服できない。ひとつのプレーすらおろそかにしないムードは、着実に浸透しつつある。

「練習の緊張感は間違いなく高まりました。昨シーズンは、ミスやペナルティで自滅したケースがすごく多かった。そこに対するチームの意識は、格段に上がったと感じます。一人ひとりの責任も、より意識するようになった。『自分の役割をまっとうしよう』という言葉が頻繁に聞こえますし、僕自身、試合中に困った時に自分の役割は何かと考え直すことが多くなっています」

戦い方の面でも進歩を実感する部分は多い。特にFWの一員として手応えを感じているのがモールだ。ボールを動かして攻める基本的なスタイルの中で、塊を作って押し込めるオプションも使えるようになったことで、攻撃の幅は大きく広がった。

「去年までと違って今年はモールがひとつの武器になっています。それによって、相手の反則からタッチキックで前進してラインアウトモールでトライ——というパターンも確立できてきました。敵陣ゴール前に行けばモールで取れるという自信があるのとないのでは、試合運びが全然違いますから」

オープン戦は4試合を戦って1勝3敗。ターゲットに掲げていたトップリーグチームとの試合で勝利を挙げることはできなかったが、強敵とのタイトなゲーム経験を通じて、自分たちの現在地をあらためて認識することができた。

「正直、差はあると思います。ただその差は小さくて、その差の大半を占めるのがミスでありペナルティであって、要は自滅している。コンタクトでも圧倒される感じはなくて、むしろ全然いけるという感触をつかめました。スクラムやモールに関しては、去年までとは比べものにならないくらい手応えがある。だからこそ、自分たち自身の問題だと思っています」

京都の嘉楽中でラグビーを始め、京都成章、明治大学とトップクラスの環境でキャリアを積んできた。大学卒業後、社員として三菱重工相模原に入社する。トップリーグクラブからの誘いもあった中、下部リーグでプレーする決断をした理由を、比果本人はこう話す。

「最初に声をかけてくださったのが、重工のセレクターだった岩倉大志さんだったんです。明治の先輩でもありますし、一番に『お前を取りたい』と言われて、ぜひお願いします、と。僕はボールを持って突破するような選手ではなく、サポートやリンクプレーを強みとするタイプです。『重工にはそういう選手がいないから、お前みたいな選手にきてほしい』と言われて。チームの目指すラグビーを実現する上で、自分のよさである泥臭さが生かせるな、と思いました」

自らのプレースタイルを「いろんなものをつなぐ接着剤みたいな感じ」と表現する。入社当初の外国人選手の突破力を軸にした戦い方から、2年目に佐藤監督が就任し戦術に沿って試合を組み立てるように変化したことで、そうした持ち味はより生きるようになった。連続してプレーできるワークレートの高さとディフェンス時の鋭い出足は、チームのシステムを遂行する上での大切なエッセンスとなっている。

「最初の頃は外国人選手頼みの印象が強かったのですが、今は考え方が全然変わって、組織でどうトライを取るか、ということを誰もが意識している。ここにポイントを打って、ここに相手を集めて、できたスペースへボールを運んで…と、よりチームとして戦えるようになってきたと感じます」

今季は同じポジションで国内有数のプレーヤーと評される小林訓也が加わった。レギュラー争いという点では、強力なライバルが出現したことになる。もっとも比果自身は、この環境を歓迎する。

「訓也さんは33歳なのにフィットネスが高いし、ラグビーの知識も豊富で、FLとして一番大事なブレイクダウンのファイトも確実にこなす。本当にすごい選手だと思います。もちろん負けたくない気持ちはありますが、現状では自分が劣っているのを認めざるを得ない。でも、学ぶことが多くて、すごく刺激を受けています。いろんなことを相談もできますし、頼り甲斐のある先輩。たくさん吸収して、早くあのレベルまで到達したい」

今季の舞台となるトップチャレンジリーグの日程が発表され、シーズンのイメージもいよいよ具体化してきた。束の間のオフを挟んで試練の夏合宿を乗り切れば、9月10日の釜石シーウェイブスとの開幕戦(釜石市球技場)は目の前だ。昨季までのトップイーストに比べ、相手のレベルもかかるプレッシャーも格段に上がる厳しい戦いとなるが、比果は「楽しみでしかない」と意気込みを口にする。

「キツそうだな、とはまったく思いません。ただただ楽しみ。ひとつ思うのは、これまでのように差のある試合がなくなるぶん、チームの総力戦になるな、と。ケガ人も出るでしょうし、フルで同じ選手が出続けるわけにはいかなくなるので、いかに選手をうまく入れ替えながら、チーム力を落とさず戦えるかが重要になる。そのためには下の選手がレベルアップして、底上げしていかなければいけない。どれだけチーム全体の力を高められるかが問われると思います」

ターゲットはもちろんトップチャレンジリーグを制し、トップリーグ昇格を勝ち取ること。個人的な目標を尋ねると、「信頼されるプレーヤーになる」という答えが返ってきた。つまりそれは、覚悟を持って果たすべき役割をやり切ることを意味する。ここに、比果義稀の生きる道がある。

Published: 2017.07.27
(取材・文:直江光信)