#018 トーマス優デーリックデニイ『このジャージーをまとう誇り。』

昨シーズンは加入1年目にして公式戦全13試合中11試合に先発し、うち9試合はフル出場。2年目の今季は、安井慎太郎とともに共同キャプテンにも任命された。パフォーマンスだけでなくキャラクターまで含めたプレーヤーとして、佐藤喬輔監督がいかに厚い信頼を寄せているかがわかる。

キャプテン就任を打診されたのは、4月3日のファーストミーティングを間近に控えた3月下旬のことだった。その時の心境を、トーマス優デーリックデニイ本人はこう振り返る。

「喬輔さんに呼ばれて、『キャプテンをやってほしい』と。1週間ほど考えてから、返事をしました。ずっとプロの世界でやってきたので、びっくりというよりは『また新しい挑戦だ』という気持ちでしたね。自分の人生においてきっといい経験になる、と思いました」

気持ちを前面に出してプレーするタイプで、トップレベルでの経験も豊富。役職のあるなしに関わらず、自分がチームを引っ張るという意識は元から強かった。そんな自分がキャプテンに任命された意味をあらためて考えた時、佐藤監督の意思と決意を感じた。

「たぶん、新しい風を入れたかったのだと思います。5年連続入替戦で負けて、これまでと同じ流れから何かを変えたい、という思いを感じました」

加入2年目でリーダーを務めることについては、「不安はまったくない」と言い切る。

「大学から新入社員で入って2年目なら、早いと思ったかもしれません。でもトップリーグでいろんなチームを経験してきたし、歳も歳(32歳)ですから。昨年1年間過ごしたことで、三菱重工の文化も学んだ。やるべきことを、やるだけです」

キャプテンとして臨む新シーズンへの意気込みを聞くと、「パフォーマンスを期待されるのは当然。その部分でさらにステップアップしつつ、リーダーとしてもっとFWから引っ張っていけるようにしたい」と力強い言葉が返ってきた。FWが密集戦で優位に立てば、BKも自然と勢いづき、ひいてはチーム全体が盛り上がる。先陣を切って突破口を開くトーマスと、堅実さや状況に応じて的確に判断する力に長けた安井とのコンビは、きっといい組み合わせになるだろう。

チームとしての取り組みでは、「毎日の練習でどれだけ積み重ねられるかが大事」と語る。

「しんどい練習をやらなければ、これまでの結果は変えられない。まだスタートしたばかりと感じるかもしれませんが、公式戦が開幕するまでに練習できる回数は決まっています。最終的にはここでどんな練習をしていたかが、試合で現れる。勝負はもう始まっている」

そう思うのは、白鷗大学を卒業後、ヤマハ発動機、トヨタ自動車とトップリーグの強豪クラブで中軸を担い、数多くのタフな戦いを経験してきたからだろう。肉体的にも精神的にも大きなプレッシャーがかかる戦いで、勝ち負けを分けるものは何なのか。そしてそれを手に入れるためには何をしなければならないのかを、トーマスは実体験を通して心に刻んできた。

「結局は、練習でどこまで厳しくできるか。今まで長くラグビーをやってきましたが、練習が楽だった年は結果がよくなかったし、ハードな練習をした年はいいシーズンを送ることができた。まずは自分に厳しく、そして仲間にも厳しさを求めていく。ここが変わらないと上には行けないし、チームも変わらないでしょう。三菱重工ダイナボアーズの一員としてのプライド、ジャージーに対する誇りを、全員が持たなければいけない。普段の練習からプライドを持って、自分に負けない、仲間にも負けないという姿勢で取り組むことが、すごく大事」

一方で、そこが改善できればトップリーグでも十分戦えるという手応えも感じている。過去2年の一貫した継続強化で、チームの地力は着実に上がった。自分たちの形でアタックを仕掛ければどんな相手からもトライを奪えたし、これまでの課題だったスクラムやコンタクト局面でも互角に渡り合えるようになった。ゲームを組み立てる上での土台となる部分が安定したことで、より意図的に試合を進められるようにもなったのも大きい。

今季の戦いの舞台は、昨シーズンのトップイースト、トップウェスト、トップキュウシュウの上位8チームで構成される「トップチャレンジリーグ」となる。全国各地に遠征しながら毎週のように難敵とのタイトな試合が続く過酷なリーグだが、これまで厳しいゲームを経験できる場が少なかったダイナボアーズにとっては、歓迎すべき変化と言えるだろう。そうしたタフな環境を戦い抜くことで、チームはさらにたくましくなり、研ぎ澄まされていくはずだ。

「毎週厳しいゲームが続くので、みんなもスイッチが入りやすいと思います。やっぱり大差で勝てるようなゲームばかりでは、いい課題も出てこない。このチームには困難な環境のほうが合っていると思うし、そこを戦っていくことで、自分たちの本当の実力を把握できるようにもなる。強い相手と当たるほど、強くなれると思っています」

そして、そんなハードなリーグを戦い抜くために欠かせないのが、チーム内の競争だ。複数の選手がポジション争いを通じてお互いを高め合うことで、チーム全体が底上げされる。強度の高い試合が連続するシーズン乗り切るためには、コンディションに合わせてメンバーのやりくりもしていかなければならない。戦力の厚みが結果にダイレクトに反映されるだけに、顔ぶれが変わっても力が変わらないチーム力を構築できるかが、大きなポイントになる。

「今のチームをみると、AチームとBチームではまだ差がある。でもパスの投げ方、タックルの姿勢など、シンプルな部分を改善するだけでグンと良くなるはずです。それによってAチームのメンバーがプレッシャーを感じて、さらに努力すれば、チーム全体でもっと上がっていける。そういう状況を作っていきたい」

大観衆が見守る中でのしびれるようなゲームを、これまで何度も戦ってきた。そんなトーマスにとっても、昨季初めて目にしたダイナボアーズのファンたちの熱気あふれるサポートは、心を震わせられるものだった。

「雨の中でもたくさんの人が会場に足を運んでくれて、すごく熱を感じました。去年は辛い思いをさせてしまいましたが、今年こそ絶対にいい結果を残しますので、ダイナボアーズに注目してください」

引き締まった表情で語る言葉に、先頭に立ってチームを牽引する男の決意と誇りがにじんだ。

Published: 2017.05.31
(取材・文:直江光信)