#004 中村 拓樹『もう一度、あの舞台へ』

満を持してトップリーグ昇格に挑む今季、ダイナボアーズFWのまとめ役であるFL中村拓樹は、ひときわ強い決意を抱いてシーズンに臨んでいる。

入社5年目の28歳。いよいよプレーヤーとしてもっとも脂の乗る時期を迎えた。同世代を見渡せば、昨秋のラグビーワールドカップイングランド大会に出場したリーチ マイケルや三上正貴、木津武士、田村優らを筆頭に、トップレベルで活躍している選手が数多くいる。かつて同じステージでしのぎを削り合ったひとりとして、心中には期するものがあるだろう。

「一番に思うのは、またアイツらと試合をしたいな、ということです。昔は同じ舞台でやっていたのに今はできていない、というのがどうしても引っかかっていて。やっぱりラグビーをやる以上は、あの舞台でやりたい気持ちが強い。そのためにチームをどう引っ張っていけるかということを、常に考えながらやっています」

もう一度同じ舞台に立つための準備は、着実に進んでいる。佐藤喬輔監督就任から2年目を迎え、取り組んできた戦い方や新たなカルチャーがチームの隅々まで浸透してきた。開幕から1か月あまりが過ぎた今、これまでにない手応えとクリアなイメージを感じながら、ひとつ一つの戦いに臨んでいる。

「今は『自分たちはこう戦う』というシステムがあって、日本人選手も外国人選手も関係なくそれに沿って戦うことができている。チーム全員が同じ方向を向いてやれているし、やろうとしていることが明確なので、意思の疎通もはかりやすい。今までは、そこが最大の課題だったので」

今シーズンは春から、戦術を遂行する上でのベースとなる『コアスキル』の精度向上に徹底して取り組んできた。基本となる土台が安定していれば、自分たちのやりたいプレーをスムースに実行できる。この部分こそがトップリーグチームとの最大の差であり、今後はどの試合、どんな状況でも常に高い精度でパフォーマンスを発揮することが、重要なポイントとなる。

「うまく行っている時は、ほっといてもうまくいくんです。トップリーグレベルでは、簡単にはやりたいことをやらせてもらえない状況で、どれだけ精度高く規律のあるプレーをできるかが大切になる。そういう意味では、夏合宿でトップリーグ勢を相手に試合をできたのはいい経験になりました。課題もありましたが、やろうとしていることがある程度できるようになってきたし、まだまだ強くなれるという自分たちへの期待感を持てた」

FWとBKのつなぎ役にして、若手とベテランの潤滑油であり、外国人選手と日本人選手の橋渡し役でもある。ポジション的にも、年齢的にも、キャラクター的にも、ダイナボアーズにおいて中村の担う役割は大きい。派手なプレーで目を引くタイプではないが、チームの誰からも信頼される。そんな選手だ。

この春は同じポジションで高校、大学の後輩である金正奎(NTTコミュニケーションズ)が日本代表に選出され、スコットランド代表とのテストマッチでも活躍して存在を示した。バックローの大型化が進む中でプレーする小さなFLのひとりとして、感じるものは多かったはずだ。

「うれしい気持ちもあるんですけど、アイツができるんだったら俺もできるぞ、みたいなところもあって(笑)。いい刺激をもらいました。それまではどこかで『小さいから』と自分に言い聞かせている部分があったんですけど、本当にすごい奴は活躍できるんだということをあらためて感じさせてくれた。負けないようにがんばりたいですね」

小さい人間の強みである低さを最大限に生かし、リアクションの早さと読みの鋭さを生かして体格の差を覆す。もちろん小さいからといって当たり負けするつもりもない。FLとして譲れない部分はきっちり押さえつつ、目に見えない地味な部分で高いワークレートを発揮できる。今季のダイナボアーズは大物選手が多数加入し、FWにもBKにも一発で局面を打開できる大砲が並ぶ。そんな布陣だからこそ、細かい部分をカバーできる中村の存在は大きい。

「元々ボールをもらってどうこうするタイプの選手ではないですし、誰かが抜けた後、ロングゲインしたところでのサポートなどを得意としているので。トップリーグが相手だと、いくら大砲がいても止められる。突破力ある選手を生かしつつ、いかにチームとして前に出て行くかが大事になると思います」

言葉の端々に、トップリーグへの強い意識がにじむ。これまで多くの後押しを受けながら、厚い壁に何度も阻まれてきた。支えてくれる人たちのためにも、今年こそ結果を出す。その気持ちは、人一倍強い。

「ウチは1シーズンだけトップリーグで戦ったことがあるのですが(2007年度)、そのことを覚えているファンの方がすごく多いんです。『もう一回あの舞台で試合を見たい』『あの時の感動をもう一度味わいたい』といって応援してくださる人がたくさんいる。トップイーストでは考えられないくらいファンが多いですし、会社にもすごく力を入れてもらっている。自分ら選手がトップリーグでやりたい、というのもありますが、応援してくださる方々をトップリーグに連れて行きたい。ラグビーブームがきている今、ここで上がらなくていつ上がるんだ、という気持ちです」

チームは4年続けてあと一歩のところでトップリーグ昇格を逃した。その一歩を埋めるために必要なものは、何なのか。中村は言う。

「チームの力は決して劣っているとは思いません。ただ、今までは『なんで勝てないんだろう』という漠然とした部分が多かったんです。でも今年は『これが必要』というのが明確ですし、これができればトップリーグでもやれるということを実感しながらできている。あとは本当の自信を持てるまで練習に取り組んで、そのレベルを上げ続けていくことが、壁を超えることにつながると思います」

悔しさと引き換えに多くの貴重な経験を積んできた。新たな実力者を迎え、戦力はかつてないほど充実している。あとはグラウンド上で結果を残し、昇格をつかむだけだ。

「今年は絶対にトップリーグに上がります。ぜひ試合を見にきていただいて、『今年は何か違うぞ』というのを感じてもらいたい。それが僕たちの力にもなるので、一緒にトップリーグへ上がるために、力を貸していただければと思います」

たくさんの思いを背に走り抜けた先には、きっと夢に描く舞台が待っている。

Published: 2016.10.31
(取材・文:直江光信)