社長メッセージ

これまで進めてきた
構造改革で築き上げた
経営基盤をもとに、
持続的な成長軌道への
第一歩を踏み出します。

取締役社長 CEO宮永 俊一

2015事業計画の総括

目標未達の要因と構造改革の成果

2017年度をもって、2015年度からの3年間の中期経営計画である「2015事業計画」が終了しました。事業規模や利益面での数値目標が未達に終わったことは非常に残念で、忸怩たる思いです。

営業利益悪化の大きな要因は、火力発電市場をはじめとする事業環境の悪化、そしてMRJ開発の遅れと開発費の増加でした。これらに対し、さまざまな施策を講じましたが、2015事業計画期間内での改善効果は極めて限定的でした。こうした想定外の事象への対応力や計画の柔軟性の不足という点も含め、真摯に反省しなければいけないと受け止めています。

一方で、そのような逆風の中にあっても目標を達成できたもの、成果を得られたものもあります。キャッシュ・フロー経営の徹底やバランスシートの改善、アセットマネジメントの推進などにより、MRJの開発費用や南アフリカプロジェクトの負担などを吸収して余りあるフリー・キャッシュ・フローを継続的に生み出しました。中でも2017年度には2015事業計画で目標としていたフリー・キャッシュ・フロー2,000億円を達成することができました。また、有利子負債の削減が進み、D/Eレシオは過去最低水準の0.38倍に到達するなど、財務基盤は盤石なものとなりました。

加えて、大規模なエンジニアリング事業や新規事業における危機対応を教訓に、リスクマネジメント体制の整備・強化にも注力しました。コーポレート・ガバナンス改革を含め、「2012事業計画」から本格的に開始した一連の事業構造改革に目処がつき、新しい成長への準備が整ったことには手応えを感じています。

経営および財務の主要数値

グラフ

TOPコンセプト

顧客、投資家、自社を意識した調和の取れた経営を

人類の歴史を振り返ると、長く続いた農業社会の後に、産業革命を経て工業社会に移行しましたが、現在は情報通信技術が社会を大きく変えつつあり、Society 5.0と呼ばれるような新たな時代に入ろうとしています。我々が得意としてきた機械工業の価値が今後も失われるわけではありませんが、「モノ」から「コト」へと言われるように、今まで以上に情報やサービス、システムなどのニーズが高まっていくことは想像に難くありません。

また、社会の進化のスピードは日に日に増しており、目まぐるしく環境が変化しています。

三菱重工グループは2015事業計画までに築き上げてきた経営基盤をもとに、2018年度から攻めに転じようとしていますが、このような社会の変化をタイムリーに捉えるとともに、社会やステークホルダーのニーズに持続的に応えていく必要があります。

そこで当社は、ESGやSDGsといった社会的共通価値を念頭に、顧客、投資家、自社の三方を意識し、調和の取れた経営を実現していくための経営指標として、売上高(事業規模):総資産:時価総額=1:1:1の比率を目指すTOP(Triple One Proportion)コンセプトを掲げました。これは当社が次のステップへと前進していく際の道標になると考えています。

MHI FUTURE STREAM

常に社会に求められる存在であるために絶え間ない変革を

当社がこれからも社会から必要とされる存在であり続けるためには、社会の進化とともに、そのステージごとに必要とされる技術やサービスを提供していくことが肝要です。現在、10年後、20年後の社会に何が必要か、そして我々がどういった役割を果たし、どのように社会に貢献できるのかを常に模索し、我々自身が変わっていかなくてはなりません。

社会の進化に対応していくうえでは、IoTやAIといった最先端の技術やノウハウを積極的に取り入れていくのはもちろんのこと、気候変動や人口動態・産業構造の変化などにも十分注意を払う必要があります。

かつて日本が鉄鋼業や海運業で隆盛を極めていた頃、当社は国内の顧客に製品やサービスを納めることで、日本経済の発展とともに成長してきました。しかし、新興国の台頭やグローバル化の進展に伴い、市場の主軸が日本から海外に移って以降、当社は長期的な低迷に陥りました。

現在では、冷熱やターボチャージャなど、海外が主な市場となるにつれて海外生産が拡大している事業もありますが、社会のニーズがどこにあり、どのように変化しているのかに常に気を配りながら、事業ポートフォリオの組み替えを絶えず続けていかなくてはなりません。

今回、サステナブルな地球の実現に向けて、絶え間ない変革を続ける当社の取り組みを表すビジョンとして「MHI FUTURE STREAM」を打ち立てました。「STREAM」という言葉には、連綿と続いていくというイメージがあり、絶え間なく自己革新を続けていくという精神が包含されていると考えています。

当社には多種多様な機械技術だけでなく、それにまつわるさまざまな要素技術の蓄積がありますが、時代に合ったサービスを提供していくためには、AIやIoT、外部の知見も活用しながらそれらを上手く組み合わせ、イノベーションを起こし、そしてビジネスまでつなげていくことが必要です。

もちろん、挑戦を続けていくうえでは、上手くいくこともあれば失敗することもあります。これまでのリスク対応等で培ったノウハウを活かし、無謀な積極策ではなく計算されたチャレンジを実行できる「コントロールド・リスク・テイキング」を志向していきます。

そして、この「コントロールド・リスク・テイキング」を念頭に、アントレプレナーシップ(企業家精神)とともに活動を続けていくことで、当社は新しいかたちの機械メーカーに生まれ変わることができると信じています。

2018事業計画

持続的な成長軌道の第一歩

一連の事業構造改革と各種課題に目処がついた今、当社は次のステージへと進む段階を迎えています。私たちは2018年度からスタートする3ヵ年の中期経営計画である「2018事業計画」を、当社が持続的な成長軌道を歩んでいくための第一歩と位置付けています。この新計画では、グローバル水準の持続性と成長力を有する企業体格の実現に向けて、これまで実施してきた事業構造改革をグループ内にしっかり定着させるとともに、長期ビジョンに基づく成長戦略を推進していきます。

2020年度の数値目標は、受注高および売上高5兆円、事業利益3,400億円、純利益1,700億円、ROEは11%としました。また、TOPの指標でもある総資産は5兆3,000億円、時価総額は3兆円としています。

当社グループのように成熟した製品事業の多い複合製造企業(コングロマリット)が必要な投資を継続して持続的に成長するためには、またグローバルな市場で規模のメリットを追求していくためには、5兆円規模の体格が必要だと考えています。

2018年度からCSOというポジションを設けたのも、成長に舵を切るための一手です。2015事業計画までは事業構造改革と財務基盤の確立を最優先としていたこともあり、CFOがCSOを兼務していました。しかし、成長志向のグローバル経営の要としてCSOを独立させ、技術や人材、資金(資本)などの経営資源の配分や継続的なポートフォリオの見直し・組み替えを行っていくべきだと判断しました。

市場が拡大傾向にあり業績好調なフォークリフトや冷熱のような中量産品事業にリソースをより投入するとともに、気候変動対策やデジタル化などのメガトレンドに対応しつつ、事業ポートフォリオを入れ替えながら新たなビジネスモデルの構築を進めることで、数値目標の達成に向けてまい進していきます。

当社は2018年度よりIFRS(International Financial Reporting Standards:国際会計基準)を適用します。

鍵を握る2つの事業

MRJ事業の抜本的強化と火力発電事業の構造転換

2018事業計画において、特にポイントとなる事業は、MRJ事業と火力発電事業です。

MRJ事業については、2016年度にCEOの直轄体制としてから、2020年度に予定している90席クラスのMRJ90の初号機納入に向けてほぼ計画通りに進捗しています。まだ型式証明(=安全性証明)の取得という大きな山を越えなければなりませんが、課題と対応策が明確になり、以前よりも靄が晴れて視界がクリアになりました。引き続き開発を加速するとともに、MRJの開発を手がける三菱航空機(株)の資本増強を含むMRJ事業体制の抜本的な強化を図ります。販売やカスタマーサポートの体制強化、MRJ70の開発本格化、民間航空機Tier1事業との連携強化など、長い育成期間に耐えうる事業体制への再構築を図ることで、MRJ事業を当社の将来の大きな事業の柱に育てていく方針です。

火力発電事業に関しては、豊富な受注残を抱え、2020年度までは高操業が続きます。この間は、効率的な工事の消化や工場の再編、人員の再配置、サービス事業の拡大などを通じて引き続き収益性の改善を図ります。併せて、2020年度以降を見据え、事業の構造転換にも注力します。当社はこれまでも世界のフロントランナーとして火力発電の効率性向上やCO2回収装置の開発など、環境負荷の低減に貢献してきましたが、今後は化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトや分散電源の増加など、社会ニーズの変化に合わせて、デジタル化も取り入れながら新たなビジネスモデルを構築したいと考えています。

経営基盤の強化

グローバルに成長するための風土と仕組み

当社が成長軌道に乗るために何より大切なのは、これまでの一連の改革の中で培ってきたキャッシュ・フロー経営に対する意識や収益へのこだわりを、国内外のグループの隅々まで浸透させ、企業文化として定着させることです。少し時間はかかるかもしれませんが、皆がこうした認識を共有し、自信を持ってチャレンジする風土を育てていく必要があります。

体制面では、2019年1月の東京・丸の内への移転を機に、グローバル本社を設置し、本格的なグローバル経営体制へと移行します。すでに当社グループの海外売上高比率は50%を超えていますが、将来的にはさらに増加する見込みであり、グローバル対応力の強化は不可欠です。グローバル本社では全社戦略の策定や経営資源の配分を担う一方、事業ドメイン/SBUや地域統括会社は、それぞれの地域特性に応じた経営・戦略を推進するなど、グローバルとローカルのバランスを取りながら成長を目指します。

併せて、こうしたグローバル経営を担っていく人材の育成や活用も非常に重要だと考えています。ついては、中長期的な視野に基づいた人材育成や役員層の若返りなど、持続的な成長に資する施策を展開していきます。

なお、当社は2004年から「国連グローバル・コンパクト」に署名し、人権、労働、環境、腐敗防止に関わる10原則を実践するとともに、2015年には当社グループの社員が遵守すべき行動規範を示した「三菱重工グループ グローバル行動基準」を制定しました。引き続き、グローバル企業に相応しい高い倫理観と誠実さを持って、事業活動を継続していきます。

SBU:Strategic Business Unit(戦略的事業評価制度における事業単位)

グローバル経営の強化

図

ステークホルダーの皆さまへ

成長プロセスの丁寧な説明に努めます

TOPの実現に向けて最も改善しなければいけないところは時価総額です。これまで各種危機対応などに多くの時間を割いてきましたが、これらの問題に目処がつき、成長軌道に入ったことをステークホルダーの皆さまに認識していただけるように努めていきたいと思います。

もちろん、実績を残さないといけませんが、併せて当社が置かれた状況や成果を従来以上にタイムリーかつ丁寧に説明していくことで、市場からの信頼を勝ち取りたいと思っています。

当社グループの全員が自己革新を続け、目標に向かって努力を続けることで、必ず目指す姿に到達できると信じています。

これからの三菱重工の成長にぜひご期待ください。