ヒンコンパワー社向けガス複合火力発電所

Mitsubishi
Heavy
Industries
PROJECT STORY
GTCC

最新鋭GTCC10台を納める
超大型複合火力発電所プロジェクト。
パンデミックにも諦めず、
タイのエネルギー 電源開発に貢献。

ヒンコンパワー社向けガス複合火力発電所

INTRODUCTION

 エネルギー政策は、産業や経済、安全保障を支える重要な基盤であり、なかでも電力の安定供給と環境配慮は、各国共通の最重要課題となっている。そうした中で注目されているのが、高効率かつ環境性に優れたガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電だ。
 トップランナーである三菱重工のGTCCプラントは、世界20カ国以上で採用されている。発展著しいタイでもその技術が選ばれ、2018年にガルフ・エナジー・デベロップメント(Gulf Energy Development)社 (当時) と三井物産株式会社の合弁事業会社、2020年 にはヒンコンパワー(Hin Kong Power)社 と契約を締結 。同時に3案件が進行する超大型複合火力発電所 プロジェクトが始動した。

脱炭素と経済性を両立する「現実的な電源」。
超大型複合火力発電所プロジェクトがタイで始動。

 GTCCが注目される最大の理由は、高い発電効率と環境性を両立できる点にある。ガスタービンの排熱を再利用して蒸気タービンを駆動することで、従来方式に比べて燃料あたりの発電量が大きく向上し、最新鋭のJAC形ガスタービンを適用したGTCCプラントの総合熱効率は64%以上に達している。 主に天然ガスを燃料とするため、二酸化炭素や大気汚染物質の排出も抑えられ、脱炭素と経済性を両立する「現実的な電源」として、新規火力発電の主流となっている。

 直近で三菱重工がタイで手がけた超大型複合火力発電所プロジェクトは、計10基の最新鋭M701JAC形ガスタービンを導入する3件のGTCC建設契約から成る。2018年にはガルフ・エナジー・デベロップメント社(当時) と三井物産株式会社の合弁事業会社と契約し、チョンブリー県のGulf Sriracha Power Plant Project(以下GSRC PJ)とラヨーン県のGulf Pluakdaeng Power Plant Project(GPD PJ)2カ所にM701JAC形ガスタービン8基を導入するプロジェクトを開始した。さらに2020年には、ラッチ・グループ(RATCH Group)社とガルフ・エナジー・デベロップメント社(当時)の合弁事業会社であるヒンコンパワー社 と契約し、バンコク西方のラチャブリ県・ヒンコン地区のHin Kong Power Plant Project(HKP PJ)でも同M701JAC形ガスタービン2基を導入するGTCC発電所建設が始動した。

 海外営業部でプロジェクト遂行を担う輸出二グループに所属し、3つ目のプロジェクトであるHKP PJで現地アドミニストレーションマネージャー(AM)を務めた飯島は、このプロジェクトの意義を次のように語る。
「本案件はガス火力発電が電源構成の約6割を占めるタイに、最新鋭M701JAC形ガスタービン計10台を中核とするGTCC発電設備をフルターンキーで引き渡す 大型案件です。タイはこれまでにも多数のガスタービン、蒸気タービンを納入している当社の重点マーケットであり、当社はタイのエネルギー政策の重要な一翼を担っている自負もあります。決して失敗できない案件でした。」
 しかし、プロジェクトには予想もしなかった困難 が襲いかかる。

異動していきなりのEM抜擢。
海外大型プロジェクトで浴びた洗礼。

 2018年、3案件のトップバッターであるGSRC PJの始動と同時にエンジニアリングマネージャー(EM)にアサインされたのが伊藤 だ。伊藤の所属するプラント設計課は発電所の基本設計(設計方針、仕様検討、系統計画、運用方針)や補機の手配、引き渡し試験までを担う部署だ。遂行設計の中でも最上流かつ最終ランナーを担う部署であり、プロジェクトマネージャー(PM)やエンジニアリングマネージャー(EM)も多数所属している。
「私は入社して10年以上、見積・基本計画部門に所属していたため、遂行設計についてはまったくの未経験でした。いずれは遂行設計も経験したいとは思っていましたが、異動していきなりのEM抜擢、しかも海外の大型プロジェクトとあって、僅かな期待と大きな不安の中でのスタートとなりました。」

 EMはエンジニアチームを率いるリーダーとして、技術的な側面からプロジェクトを遂行する。とりわけプラント機器の構成や運用を決定する系統設計など、プラントの骨格を形づくる最上流の業務を担うため、ここが決まらないと、下流工程の詳細設計やその後に控える調達・製造・建設工程には入れない。
「その系統設計図でいきなりの洗礼を浴びました。顧客が契約する欧米系のベテラン技術コンサルタントから、2000ページを超える英文契約書の細部にわたって600件以上のコメントを突きつけられたのです。中には国際規格やローカル法規の解釈をめぐるような一筋縄ではいかない変更要求もあり、説明しては反論に合い、持ち帰り再検討、また打合せということを繰り返しました。時には開始30分で議論が物別れに終わったこともあります。粘り強い折衝の末、ようやくすべてのコメントへの合意を受領したときには半年が経過していました。」
 海外プロジェクトならではの難しさを痛いほど味わった伊藤だが、この経験が後のHKP PJで大いに役立つことになる。

プロジェクトを襲う予期せぬ災厄。
世界的パンデミックのまっただ中でHKP PJが始動。

 系統設計に関する合意が遅れた分、GSRC PJの詳細設計には多くの手戻りが発生してしまうこととなる。しかし関係者のスケジュールに対する強い信念の元、挽回が図られた矢先、プロジェクトを襲った本当の厄災は、プロジェクトの進行と時期を重ねるようにして世界を恐慌に陥れた新型コロナの猛威だった。
「2020年、世界中でロックダウンや外出禁止措置がとられました。いくつかのサプライヤーの工場がロックダウンで閉鎖したため、調達品の出荷遅れも発生し、プロジェクトの工程遅延リスクが高まりました。またタイに出張しようにも陰性証明の取得と2週間の待機が必要で、現地入りしても2週間はホテルで完全隔離・待機しなくてはなりません。タイでも外出規制が行なわれ、思うように人が派遣できない。それらの対応として仮設電源による補機試運転やレンタル設備の緊急調達、またWEBを利用した遠隔指導などの対策を講じました。プロジェクトマネージャー以下、全員が一丸となって想定外の事態を乗り越え、無事に引き渡しを終えたときは胸をなで下ろしました。」

 そんな混乱の中でHKP PJが始動する。伊藤は一息継ぐ間もなくHKP PJのEMを任され、現地のアドミニストレーションマネージャー(AM)には入社3年目の飯島が抜擢された。
 AMとは、現地建設事務所の事務系業務を統括する役職である。人事・経理・調達・営業機能を司り、外国人スタッフ渡航スケジュール管理や現地採用スタッフの雇用契約手続き、通勤・宿舎手配、人員管理などを担い、最盛期には100名を超える多国籍スタッフが働く現地事務所の運営を一手に担った。
 海外営業部では若手の登竜門として入社数年目の社員をプロジェクトに派遣することが通例となっているが、これほどの大型案件の最初から最後までを任せきる例は稀だ。しかもコロナの猛威は収まることなく、世界の物流網はズタズタの時期だ。

 「現地事務所に事務系社員の日本人は私ひとり。初めて行う業務ばかりで戸惑うことの連続でしたが、煩雑な事務手続きは 現地スタッフのAM補佐の協力もあって遅滞なく進めることができました。また私は、現地スタッフと行う人事・経理・調達業務に加えて、最前線営業として、お客様やコンソーシアムパートナーとの商務交渉も任されました。商務交渉で議論する件も多く、金額規模も大きか ったことから、自分の立ち振る舞いがプロジェクトの採算に直結するというプレッシャーがつねにありました。」
 そんな孤軍奮闘の飯島を支えたのが先攻するGSRC PJ・GPD PJに派遣されていた先輩AMの存在である。パンデミック下でのイレギュラーな事態に対しても、先行するプロジェクトでの知見を共有し、的確なアドバイスを送ってもらえた。飯島はそこに三菱重工の企業文化を感じたと言う。
「若手にチャンスを与えるだけでなく、サポートにも気を配る。大きすぎるような試練に見えても脇はしっかり固めてくれるから乗り越えられる。こうして三菱重工の人材は育っていくのだなと我が身を持って痛感しました。」

誰一人として諦めない。それが三菱重工への信頼に繋がっている。

 企業文化といえば、この超大型複合火力発電所プロジェクトの完工という事実こそが三菱重工らしさに満ちている。新型コロナは予期せぬ天災だ。こうした事態に備えてプロジェクト契約ではフォースマジュール(不可抗力)条項を定めている。タイでもサプライチェーンや海運の混乱による発注品の納期遅延といった未曾有のトラブルやタイ国への入国規制や隔離対応によって各プロジェクトが苦戦するなか、三菱重工が手掛けた3案件は唯一納期を遵守した。
「当社はフォースマジュールを出しても、立ち塞がるトラブルや問題に対して知恵を絞り、持てる総力を以て品質と納期遵守を達成しました。諦めるという者は誰一人いませんでした。」(伊藤)

 結果、2025年1月のHKP PJ引き渡しによって、タイの大型プロジェクトはすべて納期通りに完工した。この完成を受けてガルフ・エナジー・デベロップメント社の幹部は「プラントが予定通りに完成して円滑に運転が始まったことは、タイのエネルギー安全保障を強化し、経済成長を支える上で重要な役割を果たす。私たちは、三菱重工とのパートナーシップが革新的で効率的なエネルギーソリューションを推進し続けると確信している。」と最大級の賛辞を送っている。
「三菱重工のプロジェクトは顧客企業や国家の戦略にも深く関わっています。私たちが諦めてしまえばタイのエネルギー戦略にも影響を及ぼします。だから諦めることはけっしてありません。そうした世界中での実績の積み重ねが三菱重工への深い信頼につながっていると思います。本プロジェクトも最新鋭ガスタービンの性能やEPC能力の高さを広く世界に示す結果となり、GTCC事業の好調な受注や業績につながっています。」(飯島)

定常業務やコンソパートナーとの精算交渉・最終号機引渡・入金対応という怒涛の日々を乗り越え、無事プロジェクトが完工した後も、飯島は商務担当としてお客様との求償交渉を行なった。初陣の飯島一人に対して、相手は経験豊かな3名が対峙。タフな交渉が続いたが、飯島はプロジェクト完工の実績を活かし、プロジェクト関係者と協議しながら粘り強く対応した。最終的に必要な利益を確保しつつ、双方が納得できる落としどころで清算合意に至ることができた。決して諦めない若手社員はこうして輩出されていく。

PERSONAL DATA

伊藤
ITO

エナジードメイン
GTCC事業部プラント技術部プラント設計課
2005年入社
工学部エネルギー専攻修了

飯島
IIJIMA

エナジードメイン
GTCC事業部
海外営業部輸出二グループ
2020年入社
人間科学部共生学科目卒