PROJECT STORY

プロジェクトストーリー
[廃棄物処理]

都市国家シンガポールならではの
大型ごみ焼却施設。
建設に加えて25年間の
運営まで行う新ビジネスへの挑戦。

INTRODUCTION

2015年10月26日、シンガポールで、ある施設に関する契約調印式が行われた。 出席者の中には大臣や日本の大使などの顔ぶれもあり、このプロジェクトの重要性がうかがえる。 主催したのは三菱重工グループとシンガポールの水供給を支える現地の有力企業。 このチームは巨大な廃棄物(ごみ)焼却発電施設を建設するだけでなく、2019年の竣工後も25年間にわたり運営していくという新たなビジネスモデルに挑んでいくのである。

 シンガポールは東京23区ほどの面積の国土に約560万人が暮らしている都市国家だ。土地に余裕がないだけに高度利用は必須で、生活インフラは全て高効率・高機能・高性能であることが絶対的な条件となる。廃棄物の処理施設に関しても同様で、家庭などから排出されるごみは速やかに焼却し、しかも発電までできる複合型のプラントが求められていた。そんな政府の要望に応え、三菱重工業グループでは1986年、1992年、2000年3月と過去3回にわたり廃棄物焼却発電施設を建設している。
「2000年に建設した施設は1日に処理できるごみの量が4320トンとなり、これは世界でも最大級になります。また発電能力も最大13万2600キロワットで、これは数十万世帯に電力を供給するほどです」
 そう語るのは廃棄物焼却プラントの設計を長く担当してきた寺部保典だ。今回のプロジェクトが始まった経緯についても説明してくれた。
「2000年に焼却場を建てたころには約400万だった人口が、15年後には550万人以上に増えています。しかもこの数字は今でも伸び続けているので、それに伴って増加していくごみを処理するには新しい処理施設の増設が欠かせません。前回のプロジェクトと大きく変わったのは、施設をつくるだけでなく、その後、25年間にわたって運営も行うという条件が付加されていることです。これは私たちにとっても初めての海外プロジェクトのケースであり、新たなフィジビリティスタディが求められました」

シンガポールの水を支える巨大インフラ企業との共同事業

 三菱重工グループは中国、台湾、韓国、タイなどに廃棄物処理施設を建設してきた実績があり、技術力や経験値において、この分野のリーディングカンパニーである。しかしこれまでは完成して引き渡すまでが主な仕事だったのに対し、運営まで委託されるのは初めてのケースだった。
「少し驚きましたが、既設プラントのメンテナンスなどさまざまなアフターサービスを通じて常にお客様や設備などとの接点はありますから、けっして新設のプラントを納入した時点で終わりではありません。そう考えたとき、運営まで携わることで、むしろ多くの技術的なノウハウが得られるのではないかと前向きに捉えるようになりました」

 しかも、今回のプロジェクトでは強力な援軍が得られた。シンガポールにおける水処理・水供給事業の大手ハイフラックス社(Hyflux Ltd.)がパートナーとなり、共同で事業を進めることになったのである。ハイフラックス社は海水や下水から飲料水や工業用水を生み出す事業を成功させたことでシンガポールの水供給の約35%を賄っており、まさに国民の生活を支える企業の一つだ。三菱重工グループとのタッグは政府にも高く評価され、正式な発注が決まる。
 寺部のプロジェクトへの決意が語られる。
「新しく建設される施設は1日の処理能力が3600トン、発電能力も12万キロワット級と、やはり世界でも有数の規模を誇るごみ焼却発電プラントになります。前回の施設を建設したあとも技術の進歩は続いていますから、当然、その成果を活かしたものにしなければなりません」

発電効率を飛躍的に高める高圧高温ボイラの実現へ

 新しい施設の設計において、大きな課題となったのが発電効率の大幅な向上だ。
「火力発電ではボイラの内部をより高圧にし、蒸気温度を高くすれば効率は上がります。ところが、ごみを燃料とする場合には、腐食性の高い物質が含まれているケースもあることから、あまり高圧高温にはできません。ボイラ内部を耐火レンガで覆う一般的な方法では4MPa-400℃あたりが上限でした」
 しかし今回は世界最高クラスの領域である6MPa-450℃への挑戦を決める。
「以前、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と行った共同研究では、パイロットプラントで10MPa-500℃の実証実験をしています。このときのデータをもとに、新型ボイラの開発が始まったのです」
 採用したのはニッケル系の超合金でボイラ内部を肉盛りしていく方法だった。効果は先行研究で実証されていたものの、問題はどうやってそれを実機で実現していくかである。残念ながら社内に対応できる装置はない。そこで調達のプロが登場する。

環境にもエネルギーにも貢献できるプラントを普及させたい

 調達部で働く赤井大介はオーストラリアの大学で開発学と政治学を専攻し、途上国の貧困問題などを考えてきたという経歴をもつ。このため、国際的なプロジェクトで多くの国の経済に貢献している三菱重工グループでバイヤーになる道を選んだが、驚いたのは、仕事の領域が考えていた以上に広かったことだ。
「調達の仕事は、ただ物を買ってくればいいというわけではありません。プロジェクトに必要な購買品全てを適正な品質と価格で手に入れ、しかも必要な場所まで確実に届けるまでが私たちの責任です。従って、物を通してプロジェクト全体を管理する仕事だと言い換えてもいいかもしれません」
 今回の廃棄物焼却発電施設建設プロジェクトでは調達の費用だけでも数百億円に達する。数え切れないほどの点数を工事の日程に合わせて揃えるには、設計や工事担当のエンジニアとの密接な打ち合わせが必要だ。そして話はボイラの高圧高温対策に戻る。
「寺部さんたち設計チームが選んだのは、中国のメーカーにニッケル系の超合金による肉盛り作業を委託するという方法だったのです。コスト面で有利なのは分かりますが、最終的に調達品の納期を保証するのは私たちですから、最初は大変なことになったと思いましたね」

 しかも、発注先が事前に保有していた設備だけでは全ての作業を終えるのに7年かかることが分かり、それではとても納期に間に合わない。そこで赤井は「新たな設備を導入し、1年間で完成させてほしい」と条件を提示した。幸い、技術志向の強い会社だったため、契約はこの条件で成立し製作が始まったのだが、「現在、24時間体制で作業が進んでいるはずです」と赤井は内情を明かした。かなり強引だが、マネジメント力に長けた調達チームを関係者が皆信頼しているからこそ、できる方法だろう。
 赤井が言う。
「今はほとんどのプロジェクトが国境を跨いで行われています。だからこそ、私たち調達チームは設計チームと一体となり、品質の保持、コストダウンおよび納期確保を両立させていかなければなりません」
 ごみ焼却発電施設は環境を守りながらエネルギーも供給できるという夢のプラントだ。
「経済力のない国では、これまでごみを野積みしていくしかなかったのですが、それでは環境は悪化していく一方です。今回のように運営まで携わるプロジェクトが増えていけば、もっと多くの国に焼却発電施設を造っていけるはず。それこそが国際貢献であり、私が目指してきた仕事なのです」

PERSONAL DATA

TERABE YASUNORI
寺部保典

三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
プラント事業部
エンジニアリング総括部
プラント設計部
技術グループ
主任
2001年入社
工学研究科機械情報システム工学専攻修了

DAISUKE AKAI
赤井大介

三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社
調達部
調達1グループ
2008年入社
Bachelor of Arts in Development Studies and Political Science