カーボンニュートラル社会の実現に貢献するCO₂コンプレッサ
三菱重工技報 Vol.62 No.3 (2025) エナジードメイン特集
技術センター
カーボンニュートラル社会実現のために、二酸化炭素(以下、CO₂)を回収、輸送、利用、貯留するCCUS(注1)(CO₂の回収、輸送、利用、貯留)が注目を集めている。CCUS では、各プロセスにおいてCO₂を圧縮する必要があり、高効率かつ高信頼性のコンプレッサが欠かせない。しかし、CCUS 向けコンプレッサにおいては、作動ガスであるCO₂の特性や、CCUS プラントの特徴に起因する多様な技術課題が存在する。
本報では、CCUS 向けコンプレッサに関する技術課題と、三菱重工コンプレッサ株式会社(以下、当社)の高い信頼性を有したCCUS 向けコンプレッサの特長について紹介する。
- 1Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留
1. CCUS バリューチェーンで活躍するコンプレッサ
当社は、長年にわたり石油・ガス、石油化学、エネルギー分野向けの大型コンプレッサを設計、製造、販売している。CCUS バリューチェーンにおいても、当社のコンプレッサは重要な役割を果たしている。図1に当社のCCUS 向けコンプレッサを示す。1本の軸に複数のインペラを取り付けた一軸多段式と、ケーシング内のギアを介して複数のピニオン軸を駆動する多軸多段式(ギアド)があり、一軸多段コンプレッサをMAC(Mitsubishi Advanced Compressor)、ギアドコンプレッサをMAC-G(Mitsubishi Advanced Compressor Geared)と呼称している。
図2にコンプレッサ適用範囲とCCUS 向けコンプレッサの主な納入実績を示す。当社は1990年代から100台以上のCO₂コンプレッサを肥料プラント、CCUS プラントに納入している。中でも、CCUS 向けにおいてはMAC、MAC-Gともに世界最大級のコンプレッサの納入実績を持つ。
MACとMAC-Gは、設備投資コスト、運用コスト、騒音性、軸シール数、フットプリントサイズ、メンテナンス性において、それぞれ異なる特長を持つ。そのため、お客様の多様なニーズ、使用環境に応じて最適なコンプレッサシステムを提供することが可能である。
2. CCUS 向けコンプレッサの特徴
CCUS 向けコンプレッサにおいては、作動ガスであるCO₂の特性や、CCUS プラントの特徴に起因する多様な技術課題が存在する。CCUS 向けコンプレッサの技術課題を以下に示す。
1. 性能予測技術
図3にCO₂の圧力-エンタルピ線図を示す。CO₂は、圧力と温度が上昇すると、液体または気体のいずれかとして存在できる臨界点に達する。この臨界点を超えると、CO₂は超臨界流体となり、液体の密度と気体の粘度を有する特異な状態になる。臨界点付近では、ガスの特性が急激に変化するため正確な性能予測が困難になる。当社では、豊富なCO₂コンプレッサの実績を基に、CO₂ガス特性を考慮した性能予測技術を確立している。
2. ロータ安定性
CO₂コンプレッサは高密度のガスを扱うため、大きな流体励振力が発生する。そのため、ロータ高剛性化や高減衰システム適用により、高い安定性を有するロータ設計をすることが重要である。
当社のロータ高剛性化、高減衰化技術を図4に示す。高剛性化技術としては、高ボス比インペラがある。インペラを高ボス比設計にすることでシャフト径を大きくし、ロータの剛性を向上させることができる。ボス比設計では、ロータの安定性を向上させると同時に、高効率を維持できるよう最適なボス比を選定している。
また、高減衰化技術としては、スクイーズフィルムダンパ、ホールパターンシール、スワールキャンセラがある。これらの技術を適用することによりガス励振力を低減するとともに、ロータに減衰効果を付与することができる。
3. 材料腐食
CO₂は水に容易に溶解し弱酸性になるため、金属の腐食を引き起こす。そのため、耐腐食材料の選定が必要になる。当社では、ステンレス鋼や耐腐食性メッキなどの高腐食環境に適した材料選定技術を確立している。
4. 設備建設コスト
CCUS は、従来EOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収)やガス処理プラントを中心に適用されてきた技術である。しかし、近年の脱炭素化の潮流を背景に、EOR ではなくCO₂を貯留するためだけのCCUS が世界各地で計画され始めている。そのようなCCUS は、設備の建設費用、メンテナンス費用を可能な限り低減することが求められる。特にCCUS の導入が進む先進国を中心として、設備建設時にかかる人件費を低減することが課題になっている。
現地での作業期間短縮のため、当社は図5のようなギアドコンプレッサパッケージを適用している。コンプレッサパッケージは、コンプレッサ、シールシステム、計装機器を含む1つのモジュールと、3つのガスクーラモジュールからなる合計4モジュールで構成される。ギアドコンプレッサパッケージを採用することで、現地へ輸送する部品点数が最小限になるうえ、配管や計装機器はモジュール設置後に取り付けられるため、現地作業日数を大幅に短縮することが可能になる。なお、配管はあらかじめ工場で製作するため、現地では溶接せずに組み立てることが可能である。
さらに、ギアドコンプレッサパッケージ全体をコンパクト化した。フットプリントは従来機と比較して20%削減されており、限られたスペースにも設置しやすい構造になっている。
3. 今後の展開
当社は、豊富なCO₂コンプレッサの納入実績、経験を基に、信頼性、ロータ安定性、空力性能特性、メンテナンス性に優れたCCUS 向けコンプレッサを取り揃えており、お客様のCCUS 計画に最適なコンプレッサシステムを提供できる。三菱重工グループの一員としてCO₂回収設備などの他製品とのシナジーを活かし、カーボンニュートラルの実現に貢献する。