電機メーカー、市役所を経て宇宙産業へ──異業種での経験をロケット打上げ現場で活かす
※記載内容は2025年3月時点のものです
2016年に三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)に入社した上田 修義。電気系地上設備チームのリーダーとして、H3ロケットの打上げに必要な電気設備管理を担っています。前職の設計開発や施工管理の経験を活かし、宇宙事業という未知の分野に挑戦する上田が、業務の醍醐味や今後の展望を語ります。
年間の3分の1を種子島宇宙センターで過ごしながらロケット打上げの安定性に貢献
三菱重工の宇宙事業部 技術部 輸送システム設計課に所属し、電気系地上設備チームのリーダーを務める上田。H3ロケットの打上げを支えるため、種子島宇宙センターにある電気系設備全般の管理を担っています。
「ロケットが打ち上がる場所を射点と言いますが、私たちのチームはその射点において、電気系設備を点検・改修したり、打上げに向けた準備を進めたりする役割を担っています。
ロケットが愛知県の工場から種子島宇宙センターに送られてくる前に、設備が健全な状態であるかを確認。ロケットが到着してからは機体と設備を組み合わせた状態で機能試験を実施し、打上げ当日まで技術的な評価、対応をしています。
また、打上げ時以外でも『保全』という作業があり、設備が正常な状態で動くか年に1度の点検をしたり、打上げ後に熱や振動で設備が壊れていないか適切に技術評価したりしています」
チームは6人で構成され、設備のハードウェアとソフトウェアの2つのグループに分かれて業務にあたっています。普段は愛知県の大江工場を拠点としながら、年間の約3分の1は種子島での作業に従事します。
「打上げ当日は発射管制室に入り、20〜30名ほどのスタッフと共に打上げ対応を行います。大型モニターが並ぶ管制室で、現場のオペレーターに指示を出し、ロケットが打上がるまでの監視や技術的支援を行います。新型のH3ロケットは打上げ実績がまだ少なく、打上げ当日に予期せぬ不具合やトラブルが発生することも少なくありません。
私たちのチームはある意味脇役ですが、安全第一でお客さまの希望通りの時間に打上げることにおいて、責任感と使命感のある業務を担っています」
ロケットは電気、推進系、ソフトウェアなど、多種多様な分野の専門家が複雑に関わり合う特殊な分野です。そのため、社内の各部署との調整や協議も頻繁に発生します。
「幅広い業務があるため、週に1回はチームの定例ミーティングを行い、各自の業務を調整しています。JAXAとも非常に密接に連携しています。たとえば装置の改修など、作業を行う際には契約を結んでから進める必要があります。ミスが許されない分野なので、基本的には決められた文書で指示を出し、記録を残すことを徹底しています」
2024年度の組織再編でチームリーダーに就任した上田。普段から意識していることについて、次のように語ります。
「チームの統括として心がけているのは、全員の業務を把握し、相談に応じ、時には一緒に現場に立つということです。多岐にわたる対応が求められるチームなので、個人にすべて任せっぱなしにするのではなく、常に支援したり、助言したりながらチームとして進めていくことを意識しています」
未経験のロケット工学に挑戦。手厚いサポート体制のもと、専門家に囲まれ知識を積む
大学院で電気工学を専攻した上田。最初の就職先は大手電機メーカーで、液晶ディスプレイの新規設計開発業務に約8年間従事しました。
「前職では主に設計開発業務に携わり、現場とのやり取りや設計の考え方、他部署との関わり方など、基本的な業務の進め方を学びました。今振り返ると、非常に貴重な経験だったと思います」
その後、市役所に転職。約2年間、公共施設の電気工事における施工管理業務を担当しました。
「市役所では、電気工事の施工管理業務を担当しました。この経験は、今の三菱重工での設備点検や改修工事の管理にも直接活かせています。工事の進め方や対応の仕方について、スムーズに適応できたのは、この経験があったからです」
2016年、上田は新たな挑戦を求めて三菱重工への転職を決意します。当時、宇宙産業への関心が高まっており、テレビドラマの影響もあって、ロケット開発に携わりたいという思いが芽生えていました。
「これまでの業務に不満はなかったのですが、宇宙という新しい分野に魅力を感じました。また、勤務地が三重県の自宅から通える愛知県の大江工場だったことも、転職を決める大きな要因でした」
入社後、ロケット工学の知識を一から学ぶ必要がありました。しかし、周囲には多くの専門家や有識者がいて、手厚いサポート体制が整っていたと語ります。
「2〜3年はしっかりと学び、覚えていく期間でした。上司が経験豊富で面倒見が良く、マンツーマンのような形で指導してもらえました。また、社内には回路の基礎研修や品質工学の研修など、幅広い研修が用意されています。社内の社員や外部の大学教授が講師を務める講座もあり、計画的に必要な知識や経験を積んでいくことができました」
現在、上田が所属する大江工場のフロアには200人近いエンジニアが在籍しています。
「各分野のプロフェッショナルが自由に議論できる雰囲気が素晴らしいと感じています。周りの人たちのサポートも手厚く、チームで一緒になってやっていこうという考えを全員が持っているため、転職してきた人にとっても非常にやりやすい環境だと思います」
打上げ成功の重みと達成感は、この仕事でしか味わえない特別な瞬間
入社以来、チームで業務を続けてきた上田ですが、とくに印象深い出来事として、H3ロケット2号機の打上げ成功を挙げます。
「1号機の打上げが失敗してしまったこともあり、“Return To Flight”(飛行再開フライト)と名付けて、次こそ絶対成功させようという位置付けの2号機だったんです。それが無事に成功した後に、管制室ではみんなで涙を流して抱き合って喜びました。
このような経験は、この業界でなければできないことだと思います。本当に嬉しかったのと同時に、この仕事に転職して良かったと最も感じた瞬間でした」
その成功の裏には、何年もの準備期間があります。多くの技術者が設計段階からトラブル解決に取り組み、パートナーメーカーとも協力して実現した成果でした。
「長い期間かけて準備していくのですが、ロケットの打上げ成功の瞬間をみんなで共有できることが、この仕事の醍醐味です。衛星を打上げることで、将来的に人々の暮らしが豊かになったり、新しい価値を創造したりすることができます。衛星を運ぶという責任重大な仕事をきちんとやり遂げられることに、大きなやりがいを感じています」
続いて上田は、H3ロケット3号機の打上げにおいて、技術グループ全体のサブリーダーを務めました。
「より責任のあるポジションで3号機を発射成功に導くことができ、非常に良い経験となりました。トラブルが起きた時には、すぐに必要なメンバーを招集し、会議を取り纏め、複数のグループにまたがって調整するなど、全体の動きを見ながら必要な指示を出していきました。
また発射当日は技術グループの中から各グループ6人程度、全体で50人ほどが発射管制室と技術支援室に集まります。私は全体をまとめるサブ的な役割を担い、各グループのリーダーと連携しながら指揮を執りました」
新型H3ロケットの打上げ前には予期せぬトラブルが発生することもあり、時には夜遅くまで対応に追われることもあります。しかし、上田はそれも含めてやりがいのある仕事だと感じていると言います。
「打上げの時刻は何時何分何秒と秒単位で決まっていますので、トラブルが起きても、その時間までに必ず解決しなければなりません。逆算して、何時何分までにこのトラブルを解決しないといけないという状況の中で、すぐに指示を出し調査する必要があります。とても責任重大な業務ですが、チームで連携して、打上げ成功に向けて進めていくことに注力しています」
歴史あるロケット事業から、宇宙産業の発展に貢献。変化を受け入れる社風の魅力
これまでの経験を活かしながら、上田は今後のキャリアについて新たな挑戦を視野に入れています。
「現在はH3ロケットの打上げ対応が主な業務ですが、月面での生活に必要な探査機や制御システムの設計など、多種多様な新規プロジェクトにも関わっていきたいと考えています。宇宙分野では次々と新しいプロジェクトが生まれているので、最前線で活動しながら宇宙産業の発展に貢献していきたいですね」
チーム統括として、メンバーが働きやすい環境づくりにも注力しています。
「スケジュール管理が厳しい仕事なので、メンバーが気持ち良く仕事に取り組み、やりがいや楽しさを感じられる雰囲気づくりを心がけています。休みに関しても、ロケット打上げの前は連続勤務になってしまいますが、打上げが終わった後の隙間の期間で有休をしっかり取ることができます。
仕事だけではなくプライベートも大切にしてほしいので、メンバーから『この日は休みたい』というような希望があれば、業務をシェアして極力取得できるようなチームにしたいと思っていますし、日々コミュニケーションをとって、チームとして長くやっていけるように育てていきたいです」
最後に、キャリア採用で入社した立場から、上田は新しく入社する方へメッセージを送ります。
「社会に貢献したい、世の中の人々の役に立ちたいという思いが強い人に向いている仕事だと思います。これまでと分野が違ったり、技術力に不安があったりしても、信頼関係をしっかり築いていけば、周りと協力しあって業務を進められます。
私も転職時は慣れない仕事で大変でしたが、期限を守り、誠実に責任を果たすことで周りからの信頼を得られました。困った時には周りから手助けしてもらえる環境なので、ぜひ挑戦してほしいですね」