宇宙の魅力に惹かれ、好きを仕事に。品質保証担当が語る、宇宙事業の挑戦と達成感
※記載内容は2025年3月時点のものです
2023年に三菱重工の品質マネジメント課に異動した西尾 美咲。現在、NASA主導の月周回有人拠点や、H3ロケット用液体 ロケットエンジンの燃焼試験に携わり、品質保証の最前線で活躍しています。新しい挑戦に直面しながらも、これまでの経験を活かし、品質を守り続ける西尾の宇宙事業のやりがいや魅力に迫ります。
月周回有人拠点とロケットエンジン、2つのプロジェクトでの品質保証の挑戦
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)の宇宙事業部で品質保証を担当する西尾は、現在2つの大きなプロジェクトに携わっています。
「1つめは、NASAが主導する月周回有人拠点のプロジェクトです。月の軌道上に国際宇宙ステーション(ISS)のような施設を作る計画で、日本は地球と同じような圧力環境を維持する装置や二酸化炭素を除去する装置などを担当しています。2つめは、液体ロケットエンジンの燃焼試験や試験設備に関わる品質保証を担当しています」
宇宙事業部品質保証部のミッションは開発・製造のすべてのプロセスで「お客さまの要求に合致した製品ができていること」を保証することです。西尾が所属する品質マネジメント課システム安全・試験チームは、3つあるチームの中で最も幅広い業務を担当しています。
「私たちのチームは、有人宇宙システム、人工衛星の品質・信頼性・安全・試験に対する保証から、ロケットエンジンの燃焼試験の品質保証、ロケット打ち上げの安全評価まで多岐にわたる業務を手がけています。日によって業務内容はさまざまですが、燃焼試験の際は1〜2週間ほど試験場に出張して専念します。
燃焼試験では、開発中のエンジンのデータ取得だけでなく、実際の打ち上げで使用するエンジンの性能確認も行います。ロケットエンジンを試験場に持ち込んで実際に燃焼させる試験を行うのですが、事前にエンジンの燃焼試験を行っても問題ない状態かさまざまな機能確認や評価を行い、試験中もさまざまなデータを見ながら異常値がないかをチェックしています」
各プロジェクトに難しさがあり、それは同時にやりがいにもつながっていると西尾は言います。
「月周回有人拠点のプロジェクトでは、開発段階から品質保証として関わっています。今までの経験とは異なるフェーズや、新たな要求に対応する必要があり、難しいことではありますが、新たなことに挑戦できるおもしろさでもあります。
一方、ロケットエンジンの仕事では、燃焼試験のたびに未知の事象に遭遇することがあります。想定外のトラブルも多い仕事ですが、原因を突き詰めていく過程におもしろさを感じます。
なにより、自分が携わったエンジンが打ち上げに使われて、成功した瞬間には大きな達成感が得られるのがこの仕事の醍醐味です」
品質保証の舞台裏──ロケットエンジンのトラブル対応で得た大きな成長
西尾が宇宙に興味を持ったきっかけは、幼少期の体験にさかのぼります。
「幼い頃に獅子座流星群を見たことが、宇宙に興味を持った最初のきっかけです。あの時、『宇宙ってなんてすごいのだろう』と感動したことを今でも鮮明に覚えています」
その後、航空宇宙工学を専攻し、工学の基礎から流体・制御まで幅広い分野を学習した西尾。就職活動では、航空宇宙のシステム、とくに最終製品に近い部分に関わりたいという想いを軸に企業を探していきました。
「当時、三菱重工のロケット打ち上げは成功が続いていて、高品質で信頼性の高いものづくりを行っている会社だと感じ、品質保証という業務に興味を持ちました。実際にインターンシップで品質保証部門の業務を経験し、いろいろな業務に広く関われる点に魅力を感じて、そのまま志望しました」
入社後、1年目から5年目までロケットエンジンの工場での組立品質保証とエンジンプロジェクト全体の品質保証を担当。とくに苦労したのが、トラブルシュートでした。
「品質保証部門がトラブルシュートを主導する必要があり、最初は進め方がわかりませんでした。時間の使い方がうまくいかなかったり、一つのエンジンでトラブルが発生した際に他のエンジンへの影響評価が遅れてしまったりと本当に苦労しました。
トラブルは工場内での組立や試験時、燃焼試験時、さらには打ち上げ直前まで、さまざまなタイミングで発生する可能性があります。そこで、自分のトラブルシュートの進め方が正しいかを早い段階で上司や周囲に確認することを徹底し、間違いがあった際は必ずフィードバックを受けて次回に活かすよう心がけました」
入社5年目には、打ち上げ3週間前という緊迫した状況でトラブルを解決しました。
「ロケット打上げ前の最終機能試験中にバルブの内部で漏れが発生し、1週間という短期間で部品の交換と原因調査を完了させなければならない状況でした。工場から代替バルブを発送し、問題のあったバルブを取り外して工場に持ち帰り、分解して原因を調査。製造工程や、購入品の調査などにも対応し、5年間の経験を活かして対処することができました」
さらに、H3ロケット初号機については、2段エンジンの担当として重要な役割を担うことに。
「打ち上げ中継を見ている段階で、2段エンジン着火後の速度上昇が見られないことから異常を察知しました。すぐにトラブルシュート用のデータ収集を開始し、関連課からの要請に迅速に対応できるよう準備を進めました。
その後、データを基に対策を講じた結果、4機連続で打ち上げ成功へと導くことができました。記憶に残っているのはトラブルばかりですが、そういった経験の積み重ねが次の成功につながっているのだと実感しています」
さまざまな場面を乗り越えられた要因には、西尾の揺るぎないモチベーションがありました。
「一番の原動力は、製品への愛着と打ち上げ成功への強い想いです。つらい仕事だと感じることもあったのですが、経験を重ねるうちに未知の事象に対してワクワクするような感覚も芽生えてきました。上司が『トラブルは学びがあり成長の糧』と口にし続けていた影響もあって、より前向きになっていったと感じています」
製品出荷の要──三現主義で最終決断を担う責任とやりがい
西尾は2023年に品質マネジメント課へ異動し、これまでのロケットエンジン関連の業務とは異なる新しい挑戦が始まりました。
「月周回有人拠点プロジェクト関連の仕事は、国際プロジェクトということでNASAの要求に基づいて仕事を進めていく必要があります。品質保証としてもNASAの要求を製造時の品質保証要求に落とし込む必要があり、それが現在の大きな課題です」
まだ開発段階にある月周回有人拠点プロジェクトでは、設計に対する品質保証が主な業務となります。
「設計された結果が安全の要求を満たしているかという確認や、製品が故障する確率がどれくらいあるかという計算をし、信頼性の要求を満足するか確認したりしています。
また、英語での要求文書の確認や海外との調整も必要です。文化の違いも含めて、新たに学んでいる状況です」
設計段階からの品質保証という新しい挑戦に取り組む中、西尾は現場とのコミュニケーションをとくに重視しています。
「1人で進められる仕事はほとんどありません。関連する部門と連携を取り、相手が何を求めているのかを理解し、必要な情報を漏れなく提示することを心がけています。とくに製造段階では、現場の作業者や検査員との関係を大切にしています。
この姿勢の重要性は、これまでの経験から実感したものです。われわれが机上で考えたことと、実際の現場での感覚が全然違うことがよくあります。
そのため、まずは、もっとも製品に近い場所で仕事をしている方たちの感覚とあっているか、実際に製品などを見ながら会話をして確認するというアプローチを取るようにしています。これは現場、現物、現実の三現主義で物事を進めてきた上司から学んだことでもあり、今でも大切にしている考え方です」
品質保証という仕事の魅力について、西尾は次のように語ります。
「品質保証は製品の最後の砦です。私たちが出荷できる、打ち上げても大丈夫という判断をしない限り、最終的な製品の出荷や打ち上げには進めません。その最後の判断を任されているという責任とやりがいが、品質保証ならではの大きな魅力だと考えています」
未来のロケット開発に向けて。成長を感じ、働きやすい環境で品質保証の専門性を追求
三菱重工で働く魅力について、西尾は働きやすい環境が整っていることを挙げます。
「休暇は取りやすい環境です。業務の都合にもよりますが、比較的急な休暇申請でも取得できる雰囲気があります。また、フレックス勤務も可能で、自分の都合に合わせて勤務時間を調整することができます。
残業についても、プロジェクトのフェーズによって変動はありますが、現在は製造が始まる前のプロジェクトが中心で突発的な仕事も少なく、比較的ゆとりがある状況です」
技術的な知識が深い方々と働けることも、大きな魅力の一つです。
「皆さん、宇宙事業部の製品に対する愛着が強く、専門的な知識を持っている方がたくさんいらっしゃいます。わからないことがあればなんでも教えてもらえる環境ですし、そういった方々と働けることは、とても勉強になります」
また、西尾は性別に関係なく活躍できる環境だと続けます。
「技術職における女性の比率は現在5%程度ですが、最近は女性も増えてきていて、ここ10年ほどで入社した社員では1割を超えるくらいの割合になってきています。産休・育休を取得して仕事に復帰される方も多くいますし、男性の育休取得者も増えていますので、分け隔てのない環境だと感じています」
品質保証部門で活躍するために必要な資質について、西尾は次のように話します。
「もっとも重要なのはコミュニケーション能力です。設計や現場との打ち合わせなど、1人で完結する仕事はほとんどありません。また、品質保証の業務では、ルールや標準、図面、技術指示に基づいて判断を行う必要があるため、文章を読むことが苦にならない方が向いているのではないかと思います。
中途採用についても定期的に募集があり、さまざまなバックグラウンドを持つ方が活躍しています。たとえば、電子部品の設計経験者や船の設計経験者など、前職とは異なる分野からも入社されています。基本的には製造業であれば、どんな知識でも活かせるのではないでしょうか」
これまでロケットエンジンの品質保証に携わってきた経験を活かし、西尾は今後の展望についてこう語ります。
「これからは再使用型のロケットや、日本独自で人を乗せられるようなロケットの開発が進んでいくと思います。そういったプロジェクトに品質保証の担当者として主導的に関わっていきたいと考えています。私自身は、今やっている仕事の専門性をより深めていきたいです」
日本の宇宙事業の未来へ向けて──宇宙の魅力に惹かれた幼少の思い出を胸に、西尾は三菱重工でこれからも走り続けます。