航空機の品質保証は、社会と未来を守る仕事。若きリーダーが語る三菱重工のリアル
※記載内容は2025年6月時点のものです
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)の航空機・ 飛昇体事業部。その最前線で品質を守るのが、同事業部の品質保証部です。防衛航空機から民間機、そして組織運営までと、若くして多様なキャリアを歩む鈴木 翔平が、仕事のダイナミズムと社会貢献への想いを語ります。
500人の組織を動かす。全体最適で導く品質保証の未来
三菱重工の航空機・飛昇体事業部、その品質保証部が鈴木の仕事の舞台です。現在は品質マネジメント課に所属し、工務・プロセス革新チームの上席主任チーム統括として、約500名が在籍する組織全体の舵取り役を担っています。
「私のチームは、品質保証部全体の舵取り役でして、主なミッションは部内全般に関する計画・管理業務です。たとえば、3年後や10年後を見据えた長期的なロードマップを描き、『品質保証プロセスをこう変えていこう』『さらなる品質改善や効率化をめざしてこうしよう』といった具体的な計画に落とし込んでいきます。
それ以外にも、部員の安全衛生管理や教育計画、働きやすい職場づくりのための風土改善活動など、業務は多岐にわたります。風土改善で言えば、私たちの職場は地区が分散しているので、地区間の交流イベントを企画したり、部長クラスと職場の一人ひとりが直接意見交換できるタウンミーティングを設定したり。
部内教育も重要な業務で、事務所で働く事務系・技術系の社員と、主に現場で航空機・飛昇体の検査・監査を行う技能系の社員、それぞれの職種ごとに専門的な教育プログラムを計画・実施しています」
鈴木が常に意識しているのは「木を見て森を見ずにならないように」という言葉。その価値観は、品質保証という仕事の本質そのものです。
「細かい部分に捉われて全体が見えなくなると、本当に重要なことを見失ってしまいます。常に森、つまり全体を見て、どうすれば良くなるかを考えるように意識しています。
会社では『SQDC』、つまり安全(Safety)、品質(Quality)、納期(Delivery)、コスト(Cost)をこの優先順位でものごとを考えることが大切にされていますが、これは品質保証の役割そのもの。品質だけ、コストだけを追求しても、良い製品は生まれません。事業全体が良くなるように考える。
管理職として、会社のめざす方向性と共に働く仲間の思いを統合しながら、常にその視点をチームで共有していきたいと考えています」
空への憧れが原点。若き日の経験が育んだ、ものづくりへの責任感
幼い頃から、空を飛ぶものに強く惹かれていた鈴木。その純粋な憧れが、現在のキャリアの原点です。
「実は私、学生時代は理数系の科目が苦手で、浪人も経験したんです。それでも『航空機に関わる仕事がしたい』という思いだけは変わりませんでした。好きなことだったら、きっと続けられるだろうと。
もともと祖父が工務店を営んでいた影響でものづくりに興味があり、『十五少年漂流記』のような冒険小説も好きでした。その2つが結びついたのが、中学生の時に知ったアポロ計画です。宇宙飛行士の多くが戦闘機のテストパイロットだったことから飛行機にも興味を持ち、航空宇宙工学を学べる大学へ進学しました」
「航空機に関わる仕事がしたい」という一心で2012年に三菱重工へ入社。三菱重工には、専門性を極めるスペシャリストと、幅広い部署を経験して管理職をめざすジェネラリストというキャリアパスがあり、鈴木は後者の道を歩むことになります。最初の配属先が、後のキャリアを大きく方向づけることになりました。
「最初に担当したのは、航空自衛隊向けのF-4戦闘機の定期修理でした。定期修理というのは、機体を一度バラバラに分解して点検や修理を行い、また組み立てて新品同様の性能に戻す、まさに航空機の安全を支える根幹の仕事です。
実は、入社時の配属は別の機種になるはずだったんです。しかし、当時の課長が『鈴木は少し英語ができるから、まずはF-4で仕事の基本を学び、その後、後継機であるF-35の立ち上げに携わろう』と、将来を見据えてキャリアプランを考えてくれました。この2年半の経験がなければ、その後のキャリアはありませんでしたね」
多くの人々の想いを背負い、一機一機に真摯に向き合う。このF-4での経験が、鈴木の中に品質保証という仕事への責任感を深く刻み込みました。
「とくに印象深いのは、修理を終えた機体をお客さまである航空自衛隊のパイロットに説明し、引き渡す最終場面です。品質保証部だけでなく、社内の関係者、サプライヤーの方々、過去の修理に携わった先輩たちまで、数えきれないほどの人が関わってきた機体ですから、その重みを感じながら最終的な説明をして離陸を見送る。毎回、ものすごい緊張感とやりがいに満ちた瞬間でした。
自分が担当した機体はすでに運用終了となっていますが、博物館で見ると今でも当時のことを思い出します。機体には一機一機に機体番号が付いているのですが、その番号を見るだけで『あの機体は飛行試験で苦労したな』と、わが子のような愛着が湧いてくるんです」
多くの人々の想いを背負い、一機一機に真摯に向き合う。この経験が、鈴木の中に品質保証という仕事への責任感を深く刻み込みました。
新たな挑戦への連続から拓いた、成長の道筋
入社3年目、鈴木はキャリアの大きな転機を迎えます。F-35戦闘機の国内における最終組立・検査の立ち上げプロジェクトへの参画です。
「F-35プロジェクトは米国企業のパートナーとして機体の組み立てを行う立場だったんです。だから、これまでの三菱重工のやり方のままでは通用しない。米国企業の要求や審査をクリアしながら、一つひとつ仕事のやり方を構築していく必要がありました。
何度も審査を受け、指摘事項を是正し、粘り強く業務を進めて、工場すらない状態から初号機を納入できた時の達成感は、今でも忘れられません。契約から引き渡しまで、一連の流れすべてを経験できたのは、私のキャリアの大きなベースになっています」
その後も鈴木の挑戦は続きます。2019年には、米国の拠点へ1年間派遣されました。
「米国では、当時開発を進めていた民間旅客機『三菱スペースジェット』型式証明試験の品質保証を担当しました。試験のセットアップが要求事項を満たしているか、飛行の準備に問題がないかなどを確認する仕事です。
プロジェクトが困難な状況にある中で学んだのは、『現状ありき』の改善では、組織は本質的に変われないということです。全体を大きく変えるには、時にはトップダウンで一気に舵を切るような強い意志が必要になる。この経験は、プロセス革新を担う今の仕事の原点になっています」
帰国後はヘリコプタ品質保証課へ異動し、初めて管理職のポジションに就きます。そして、これまで機体全体の組立や試験に携わってきた鈴木にとって、部品に特化するこの異動は、大きな変化でした。
「部品の担当、しかも初めての管理職ということで驚きましたが、ここでも多くの学びがありました。担当したのは複合材部品の品質保証です。複合材というのは、ゴルフのシャフトやテニスラケットにも使われている、ものすごく軽くて強いプラスチック素材のことで、航空機には欠かせません。
実は、この複合材技術は三菱重工の武器の1つです。しかし、その重要な技術を担う私の係は小さく、メンバーの年齢構成から世代交代も考えなければならない状況だったのです。
だからこそ、どうやって人を育て、チームを強くしていくか、5年後、10年後を見据えて常に考えていました。メンバーに仕事を任せ、背中を押し続けた結果、成果を出し、私ではない周囲の人から評価されている姿を見た時は、上司として本当に嬉しかったですね」
一人ひとりが主役。社会貢献と自己成長を実現できる場所
防衛航空機から民間機、部品から組織運営まで。多様な職場を経験してきた鈴木の根底には、品質保証という仕事への確かなやりがいがあります。
「品質保証のやりがい、その一番は、やはりお客さまの満足につながることですね。お客さまの要求事項を満たし、決められた納期やコストで製品を納めることで、事業としてきちんと成立させる。その当たり前のことを突き詰めるのが、私たちの仕事の基本です。
そして、そのお客さまの先には、社会全体が広がっています。たとえば、災害時にニュースでヘリコプタが人々を救助している映像を見ると、『あの機体も自分たちが手掛けた製品なんだ』と、社会の役に立っていることを実感でき、誇らしい気持ちになります。
品質保証の仕事に、特効薬や魔法はありません。仕事でミスをして迷惑をかけたことも数えきれないほどあります。それでも、『続けることが事を成す』と信じて、日々の業務を真面目に、コツコツと積み重ねていく。一人ひとりのその積み重ねが、最終的にお客さまの満足と社会貢献につながっていくのだと信じています」
今後のキャリアについては、ジェネラリストとして組織を率いる立場と、再び現場のスペシャリストとして活躍したいという思いの間で、自身の役割を模索しています。
「私は、一方的に指示を出すタイプではありません。メンバーそれぞれの声に耳を傾けながら、背中を押してあげるような存在でありたい。それが管理職としてのやりがいです。
一方で、新機種の立ち上げのような、ゼロからイチを生み出す現場の仕事にも、また挑戦してみたいという気持ちもあります。自分の進むべき道をこれから検討していきたいと思っています」
三菱重工で働くことの魅力、それは日々の仕事の中にこそあります。
「『大きな会社では、小さな歯車の一つとしてしか働けないのでは』というイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。一人ひとりの裁量は大きく、若いうちからダイナミックな仕事ができます。
また、三菱重工の品質保証の仕事ならではかもしれませんが、ものづくりの最初から最後まで関わる機会があることも魅力の一つです。OB訪問で学生の皆さんにこうした話をすると、本当に目を輝かせて聞いてくれるんです。それを見ると、自分のやってきたことは間違っていなかったんだな、と嬉しくなりますね。
自分の仕事で社会に貢献したい、大きなやりがいを感じながら成長したい。そんな想いを持つ方にとって、ここは最高の環境だと思います」
品質という揺るぎない軸を持ちながら、挑戦を続けることで自らのキャリアを切り拓いてきた鈴木。その視線は、組織の、そして社会の未来を見据えています。