カーボンニュートラル社会の実現と、将来にわたるエネルギー安定供給に向けて、さらなる安全性を備えた革新軽水炉が動き出す。

※記事内容は取材当時のものです

Mitsubishi Heavy Industries PROJECT STORY
革新軽水炉

INTRODUCTION

 近年、カーボンニュートラル社会の実現や国際情勢不安によるエネルギーセキュリティの観点と資源価格の高騰から原子力の有用性が再認識され、安全性を高めた次世代革新炉への期待が高まっている。こうした機運を受けて、三菱重工は、将来にわたる日本のエネルギー安定供給に向けて、従来の原子力発電プラントからさらなる安全性を備えた革新軽水炉「SRZ-1200」の開発に着手。東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故以来、国内初となる新設プロジェクトを始動させた。

「革新軽水炉 SRZ-1200」の動画を見る

東日本大震災以来、初の新設プラント建設に向けて
プロジェクト全体を統括

 2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故は、原子力に携わる者にとっても大きなショックを受ける出来事であり、その衝撃は今も心に深く刻まれている。国内観測史上最大規模となる東日本大震災で、地震と津波によって全交流電源が喪失し、原子炉を冷却するための機能が失われ、1・2・3号機で炉心が損傷し放射性物質を放出するという、大規模な原子力事故となった。原子力の安全性に対する信頼は損なわれ、日本の原子力政策は軒並み停滞を余儀なくされた。畔川和樹も、その余波を受けた一人だ。
 「入社以来、プラントのスタートアップ・試運転業務に携わり、当時の最新鋭PWR(※)プラントであった泊発電所3号機の建設工事に従事するなど、原子力プラント建設の最前線でキャリアを重ねてきました。さらに、異動先の系統設計課では、次期新設プラントの建設に向けて、これまでのプラント運転に関わる技術を設計に反映しながら、SRZ-1200の基本コンセプトにも採用されたさまざまな安全対策についての検討に取り組んでいました。しかし、東京電力福島第一原子力発電所の事故ですべての予定が白紙に」

※PWR:Pressurized Water Reactor。加圧水型原子炉

 その後も脱原子力の世論は収まる気配はなく、未来を照らす光は長く差し込むことはなかった。そんな状況下においても、三菱重工で原子力事業に最前線で携わってきた者として、どうすれば将来の原子力発電所の安全性を高めることができるか、信頼を回復できるかの検討を続け、決して諦めることはなかった。
 「大きく潮目が変わったのは2020年頃です。気候変動への危機感から温室ガス排出削減を希求する動きが世界的に活発となり、時の菅首相が所信表明演説のなかで『2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする』と明言。ロシアのウクライナ侵攻も大きなインパクトとなりエネルギーセキュリティの観点からもカーボンフリーかつ大規模・安定電源である原子力の有用性が再認識され、2022年には政府のGX実行会議で次世代革新炉の開発方針・ロードマップが策定されました」

 こうした原子力の最大限活用の機運や国の方針を受け、発足したのが革新軽水炉SRZ-1200の新設プロジェクトだ。畔川は、原子炉の設計から建設まで、全体像を知る者として、プロジェクトメンバーにアサインされた。
 「GX実行会議において原子力の基本方針が見直された時には、ようやくこの日が来たかと胸躍る思いでした。東日本大震災以降、初の原子力発電所の建設に向け、その第一歩である基本設計を始めるというタイミングでビッグプロジェクトに参画できるんですよ。ぜひこの新設プロジェクトを前進させるため尽力したいと決意を新たにしました」
 プロジェクトメンバーとしての畔川の役割は、計画段階からプラント引き渡しまでのプロジェクト全体を円滑に推進することだ。計画段階においては電力事業者のニーズに合わせてプラントの建設計画を立案。基本設計、詳細設計段階においては、社外のプラント設備や工事とのインターフェイス調整や社内機電設備の設計業務、電力事業者の許認可対応の取り纏めなど、業務内容は多岐にわたる。

 「なかでも苦労するのは数多くのステークホルダーとの調整です。原子力の設計分野は非常に広範囲にわたり、問題点の共有・連携が容易ではありません」
 SRZ-1200には、新たな安全メカニズムとして、プラントの状態に応じて電源不要で自動作動するパッシブ安全設備や、世界最新技術の溶融炉心対策であるコアキャッチャなどが組み込まれている。
 「安全性を高めるには自然現象への耐性強化や新たな安全メカニズムの採用等、新規技術の開発が必要です。そうした課題をひとつひとつクリアし、現在は基本設計の大部分が終了しました」
 東日本大震災以前には多数のプラント新設計画があったが、政府のGX実行会議で2030年代に革新軽水炉を商業炉として建設する開発方針が明確に示されたことから、今後これらの計画が順次再開され、建設予定地が具体化していくものと期待している。
 「建設予定地が決まれば、いよいよプラントの詳細設計、建設へと進みます。プラントを完成させて引き渡すまで、本プロジェクトのチャレンジは続きます」

ステークホルダーとの信頼構築を通して、
革新軽水炉新設プロジェクトを現実のものに

 畔川が主に技術面からプロジェクトを統括・推進するのに対して、契約交渉という営業面からプロジェクトを進めているのが神戸原子力営業部の細貝耕だ。そして細貝も、福島第一原子力発電所事故の影響を受けた一人である。
 「入社して、大飯発電所のアフターサービスを担当していましたが、東日本大震災後、日本のすべての原子力発電所は一旦運転停止。その後、国内で原子力の安全性を高めるための厳しい規制基準が設けられたため、既設の原子力プラントの安全対策工事を行うなど発電所の再稼働に向けた電力会社支援を担当していました。原子力発電は日本にとって不可欠だと確信していましたから、既設プラントの安全性向上と安全安定運転により原子力に対する信頼回復に努めることでやがて再び原子力が必要とされる日が来るものと思って眼前の課題にひたすら取り組んでいました」
 その意味で、SRZ-1200新設プロジェクトへの参画は、細貝にとって待ちに待った復活への道のりの第一歩だった。
 「現在、プロジェクトは4つのPWR電力会社※と共同設計委託を契約し、基本設計を推進中です。また、電力システム改革など事業環境も変わっており、新設を進めて行くうえで国の支援も得ながら、電力会社様との関係をどう構築していくかなど検討を進めています。」
※PWR4電力:加圧水型原子力発電所を保有する北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力4社の総称

 そうした日々の活動のなかで、細貝が心がけているのは“関係者との信頼関係を築くこと”だ。
 「最新式原子力プラントの新設というミッションの性質上、関係者は非常に多岐にわたり、プロジェクトの進捗と共にさらに広がっていきます。全関係者との接点となる営業部門は関係者との信頼構築が不可欠ですが、これは、一朝一夕でできるものではありません。関係者間で細かい意見の食い違いがありますし、利害関係も発生します。ただ、世界最高水準の安全性を誇る最新式原子力プラントの新設を実現したいという思いは同じであり、みんな士気も高い。関係者が同じベクトルでマインドを構築できるよう、普段から心がけています」
 また、ステークホルダーの意向をくみ取り、営業的側面からプロジェクトに提言することも、営業の大きな役割だ。
 「将来の契約に結びつけるためには、他電源と比較した競争力を確保するために、コストダウンへの取組みが必要です。そのために、設計進捗に合わせて建設コストへの影響をモニタリングしています」

 言うまでもなく、次世代革新炉に求められるのは第一に安全性だ。SRZ-1200は”安全系設備の強化”や”地震、津波など自然災害への耐性および不測事態へのセキュリティの強化”といった安全性、信頼性向上について新しい規制基準を満たしており、カーボンフリー且つ大規模・安定電源であり系統運用という点でも電力各社のニーズを満たしている。
 「それだけでもSRZ-1200は競争力の高い原子炉ですが、イニシャルコストやランニングコストが高騰するようでは電力ビジネスが成り立ちません。発電効率の向上や定期点検による稼働停止期間の短縮など、経済性の観点からの要望を設計サイドに伝えています」
 そうした要望は基本設計にも反映され、例えば原子炉建屋の動線や、主要機器のメンテナンス性といった細部にわたって、さまざまな工夫が取り入れられている。
 「10年単位の将来を見据えた原子力発電プラントの新設プロジェクトに携われることは私にとって大きなやりがいです。本プロジェクトの多岐にわたる関係者とのやり取りを通じて、自身も成長できると確信しています。5年、10年後、更にその先を見据えてこのプロジェクトに取り組んでいます」

プラント内の被ばく低減や、万一の際の安全性を担う
40種類にも及ぶ空調システムを設計

 原子力プラントは無数のシステムの複合体だ。その重要システムのひとつ、空調システムの設計に携わっているのが若きエンジニア、早坂榛名だ。早坂と原子力の出会いは高校時代。校外学習の一環で放射線治療の施設を見学した早坂が、粒子加速器に興味を持ち、そこから放射線の有効利用について学んだところまで遡る。その後、大学院に進んだ早坂は原子力を専攻。東京電力福島第一原子力発電所事故で原子力に厳しい目が注がれているなか、ヒューマンファクタ(人的要因)の観点から原子力プラントの安全性向上について研究した。
 「いつかは、自分の手でプラントを建設したい。そんな思いを持って三菱重工の門を叩いた私にとって、革新軽水炉SRZ-1200の新設プロジェクトにアサインされたことは望外の喜びであり、不安よりもやってやるぞという期待感の方が遙かに勝りました。また、プロジェクトチームには学生時代とは異なり原子力以外の幅広い学科・専攻の出身者も多く、各々の専門分野や入社後に培った知識を活かして、完成に向けて思いを一つにお互いの技術力を高め合いながら取り組める環境であることも魅力と感じています」

 一口にSRZ-1200の空調設計といっても、格納容器内や制御室の空調など、それぞれの設備に応じて、その種類は40種類にも及ぶ。加えて、SRZ-1200には万一の事故に備えた各種の安全対策が講じられており、空調システムは放出された放射性物質を低減し外部に漏らさないための要でもある。より安全な原子力プラントを目指した新たな空調システムの設計は困難を極めた。
 「SRZ-1200は、既設プラントよりもさらに安全性を高めるべく、新たなコンセプトを取り入れており、これまでの設計にはない知見・技術が必要です。もちろん、これまでPWRの設計で培った知見が大きな下地になってはいるものの、システム構成をどうするか、機器の種類をどうするか。系統図をつくっては、これをベテラン社員にも参画してもらいレビューして検討を重ねての繰り返し。また、空調システムは原子力プラント全体にまたがっているため、新設計を取り入れると空調以外の設備にも影響を及ぼします。その確認は慎重に行う必要があり、多岐に渡る関連部門との調整作業にはとても苦労しました。ただ、その苦労の対価として、調整能力や説明能力は大いにスキルアップしましたね」

 現在、SRZ-1200の空調システム設計は、標準設計を順調に進め、各種要求事項の整備やシステム構成検討の大部分は完了しており、これからは空調対象の発熱量や必要な換気量に応じて機器の容量等を決定する設備仕様検討がメインとなる。さらにその先、建設候補地が決まれば、サイトの条件に合わせて標準設計をカスタマイズするというステージに入っていく。
 「本当の意味でのゴールはまだまだ先の話。そこにたどり着くには多くの障壁が立ち塞がるかもしれませんが、SRZ-1200が完成する日を想像すると、今からワクワクします。三菱重工の強みは、原子力プラントの設計から製造・建設、アフターサービスまでを一貫して行っていることです。そのため、自社内に高い技術力・ノウハウが蓄積され、自身もエンジニアとしての能力を向上させることができています。こうした環境のなかで大きなプロジェクトに参加していることに誇りを感じますし、そこで得た自身の経験や知見が原子力の未来に繋がっていると考えると、大きな達成感を感じます」
 カーボンニュートラルとエネルギー安定供給の実現のため未来に原子力を繋いでいく、新設プロジェクトのメンバーの士気は高い。

畔川 和樹 KAZUKI AZEKAWA

畔川 和樹 KAZUKI AZEKAWA

原子力セグメント SRZ推進室 新設炉プロジェクトグループ / 2002年入社 / 電気工学科卒

細貝 耕 KOH HOSOKAI

細貝 耕 KOH HOSOKAI

原子力セグメント 神戸原子力営業部 プラント課 / 2009年入社 / 経済学部卒

早坂 榛名 HARUNA HAYASAKA

早坂 榛名 HARUNA HAYASAKA

原子力セグメント プラント設計部 総合配置計画課 / 2017年入社 / 量子エネルギー工学専攻修了

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