経済の発達とともに拡大する自動車用冷凍ユニットの市場。設計と営業の二人三脚が新たなグローバルビジネスを創り出していく。

※記事内容は取材当時のものです

Mitsubishi Heavy Industries PROJECT STORY
輸送用冷凍ユニット

INTRODUCTION

スーパーマーケットやコンビニエンスストアに行くとたくさんの冷凍食品が並んでいる。 これらの配送に欠かせないのが冷凍車だ。 最近では食品以外にも医薬品や電子機器・部品など正確な温度管理が求められる商品の輸送に、マイナス30℃からプラス30℃まで、きめ細かく設定ができる冷凍車の需要が増大している。 そしてこの分野で大きな実績を誇るのが、三菱重工だ。 船舶や鉄道など輸送機器用の冷熱システムを古くから製作してきた経験を活かし、1972年に日本で初めてトラック用の冷凍ユニットを商品化してから、国内市場ではトップシェアを維持し続けている。 そして現在、市場性の異なる欧州への本格的な進出を進め、さらには今後、大きな成長が期待できるアジアへも視野を広げていくつもりだ。 グローバル市場における新製品開発と事業展開について、その中心メンバーとなる2人に語ってもらう。

大型トレーラーで食品を長距離輸送する欧米
日本と異なるマーケットへの新たな挑戦が始まった

 冷凍車として私たち日本人がよく目にするのはトラックタイプだ。0.8〜10トンクラスのトラックの台車に冷凍庫となる箱を載せ、冷凍ユニットで庫内の温度をコントロールする。三菱重工が長く得意としてきたのも、このタイプになる。
「日本の場合、冷凍食品を大量に長距離輸送するニーズがあまりないので、比較的、小さなトラックタイプの冷凍車が主流です。小ロットで1日に何回も配送するほうが、きめ細かいサービスにつながると考える国民性もあって、大型化は進みませんでした」
 こう語るのは、冷熱事業で豊富な営業経験をもつ白石広志だ。ところが北米や欧州になると、事情が異なる。
「アメリカでは長い距離の輸送があたりまえなので、とにかく1回で大量に運んでしまおうという発想から、冷凍車も巨大なトレーラータイプのものが多いのです。ヨーロッパでもEUによる市場統合が進んだことで同じようなニーズが生じてきました」
 このような市場性の違いから、これまで日本の冷凍ユニットメーカーは積極的に海外進出を進めてこなかった。
「冷凍車の事業は完全な先進国型ビジネスで、経済力のある地域ほど需要が多いのです。このため最初に北米で普及し、続いて日本と欧州で市場が成長していきました」

 その結果、先に実績を確立したアメリカの2大メーカーが先行し、以前は日本でも大きな力をもっていた。しかし、国内市場においては三菱重工に代表される日本のメーカーが急伸することで、今では外国勢のプレゼンスは低下している。
「トラックタイプの冷凍車が中心だということに加え、日本のユーザーは温度管理について非常に厳しいうえ、機械の耐久性やメンテナンス性に強くこだわることから、アメリカのメーカーでは充分な対応ができなかったのです」
 そして1970〜1990年代は日本と欧米という市場ごとの棲み分けが進んだのだが、三菱重工はその状況に決して満足していたわけではない。
「国内トップという地位に甘んじているようでは事業を続ける意味がありません。このため、最初のターゲットとして選んだのが欧州だったのです。今はアメリカのメーカーが非常に強いものの、細かくみれば北米とは違う市場なのですから、私たちの強みを活かせるかもしれない。そんな考えから、2007年以降、本格的な進出を始めました」
 そこで、切り札となる人物が投入された。

欧州市場向けに最大サイズの冷凍ユニットをつくろう!
新たな目標に向かって集められたプロフェッショナルたち

 甲斐政和が三菱重工に入社したのは2003年。すでに15年近い社会人経験があった。
「大学卒業後は、外資系の自動車部品メーカーに入りました。機械工学科の出身だけに、自動車産業に憧れがあったからです」
 ところがそこで担当することになったのが、自動車とは関係ない定置式の冷熱機器だった。最初は戸惑いを感じたものの、すぐに夢中になる。
「おもしろいんですよ。冷熱機器はメカニズムに加えて熱力学、流体、電気・電子、制御などさまざまな科学技術の融合製品ですから、学べることがたくさんある。毎日が新しい発見の連続でしたね」
 しかし、会社の経営方針が変わり、担当する製品の開発に携われなくなったことで初めて転職を考える。そんな彼の期待に応えられる職場が、三菱重工だった。
「空調機から冷凍機まで幅広い冷熱システムを手掛け、しかも、もともと船舶用や大型汎用などの特殊なものに強かった。ここなら自分の得意な分野で新しい挑戦を続けられると思ったのです」

 そして願い通り手掛けることになったのが、欧州市場向けのトレーラー用冷凍ユニットの開発だったのである。
「三菱重工のラインアップの中でも最大サイズのものになるだけに、話を聞いたときには興奮しましたね。さっそくメンバーを集めてプロジェクトチームを結成したのです」
 このとき、開発の進め方でも新たな試みをしている。
「開発メンバーは8人ほどですが、それぞれ専門分野にこだわるのではなく、機械から制御システムまで幅広く担当することで総合的な性能の向上を目指しました。また流体工学による最適化設計などは得意な人のいる研究所の協力を得たほか、調達や生産のスタッフとも常に情報交換をしながら開発を進めることで製造のしやすい製品の実現を心がけたのです」
 いわゆるフロントローディングと呼ばれる開発手法を取り入れたことで作業は順調に進んだようにみえた。しかし、甲斐たちはすぐに、大きな技術課題にぶつかることになる。

欧州のトレーラーは米国のものより小さい 限られたスペースで最高性能の冷凍ユニットを可能にする新技術

 新しく投入するトレーラー用冷凍ユニットは、これまで日本のメーカーがつくったことのない最大の冷凍能力と冷却風量を目指すことになった。ところが、設計条件をみて甲斐は愕然とする。
「トレーラーでは運転台と荷台の間のスペースに冷凍ユニットを設置するのですが、欧州では全長制限がアメリカより厳しく、お客様の望む庫内の広さを確保しようとすると前後の幅は最大で43cmしかとれなかったのです。つまり人間の横幅ほどの厚さの機械にトレーラー1台分の冷却ができる能力をもたせなければいけないのですから、これは大変なことになったと思いましたね」
 頭を抱える甲斐をよそに、市場調査を続けてきた白石は次々と新たな設計条件を付け加えていく。そのたびに2人は何度も激論を交わした。白石が言う。
「どれをとっても技術的に困難な課題だということはよくわかっています。しかし私たち営業はお客様の声を常に聞き、どんな商品でなければ市場を獲得できないか肌で感じていますから、ときには心を鬼にして、『こんな製品をつくってくれなければ困る』と主張することも大切なのです」
 もちろん甲斐もそれはよくわかっている。しかし…。
「先行するアメリカのメーカーと同じ性能のものを小さなサイズでつくってくれという程度の要求ならまだ楽なのですが、営業の言葉は、『性能でもライバルを圧倒するもの』というハードルの高いものでした。それでも最終的に受け入れてしまうのは、いつも高い水準に挑戦することでトップクラスの製品をつくってきたという自信とプライドがあるからです」

 そんな考えからさまざまな工夫を行い、ついには世界でもっとも高性能の冷凍ユニットが誕生した。技術的なブレークスルーはいくつもあったが、代表的なものとして甲斐は3Dケーシングとアキュムレータレスを挙げる。
「3Dケーシングは3次元設計によるまったく新しいデザインの流路で、空気を効率的に流せることから小さなサイズでも充分な風量を確保できました。またこの分野で初めて精密な電子制御システムを導入し、冷媒の状態をきめ細かく管理することによって液体と気体を分離するアキュムレータという装置を不要にしたのです」
「PEGASUS」の商品名で発売された製品は、欧州では初めての日本製トレーラー用冷凍ユニットでありながら、お客様から高い評価を受け、売上を伸ばしている。
「冷凍ユニットをどこのメーカーのものにするかを決めるのは物流会社や食品会社などのエンドユーザーです。彼らにしてみれば製品の性能やメンテナンス性によって事業が大きく左右されるのですから、非常にシビアな評価をして製品を選びます。この点、日本製品への信頼が高いのと、よく知られたMITSUBISHIブランドだという強みが、幸先のいいスタートにつながったのではないでしょうか」
 白石は2000年から4年間、ドイツに駐在してビル用マルチエアコンの営業をしてきた経験がある。当時、この分野では日本のメーカーが圧倒的に強く、今でも欧州の市場を席巻しているのだが、その過程で技術力の高さが新たなビジネスの創出につながることを身をもって学んだ。それだけに、これまでの自分たちの戦略には自信をもっている。甲斐も今のところは順調なすべり出しだと、ほっと胸をなで下ろした。
「ドイツに出張したとき、高速道路ですれ違う冷凍車を数えたら、なんと3割近くにうちの冷凍ユニットが付いていました。予想以上にシェアが高かったことに驚くとともに、開発担当としてこれほどうれしかったことはないですね」
 第一の矢は放たれた。しかし第二、第三の矢をどうするかについて、2人は今も熱い議論を続けている。

アジアの経済成長は新たな市場をつくる そのとき三菱重工製冷凍ユニットが大きなシェアを獲得できる作戦を考えよう!

 欧州市場への挑戦。輸送用冷凍ユニットのビジネスを手掛ける白石と甲斐にとって、それは大きな目標に向けた第一歩に過ぎない。彼らが最終的に目指しているのは、アジアを含めた世界市場における成功だ。白石が言う。
「厳密な温度管理をして物を運ぶなんていうニーズは経済的に発達した地域にしかありませんから、今のところ車載用冷凍ユニットの市場は北米・欧州・日本が中心です。しかし、国民1人あたりのGDPと冷凍車の普及の関係を調べていくと、年間4000ドルを超えたあたりから本格的な普及が始まることがわかってきました。アジアでいえばタイや中国がこの水準に達しつつあるので、これからは市場の拡大が見込めるはずです」
 ちなみに、アジアでも日本と同等の経済力があるシンガポールでは冷凍輸送は一般的で、三菱重工製のユニットを載せたトラック型の冷凍車が数多く町を走っている。
「アジアの場合は道路整備などの問題もあってトレーラー型の冷凍車はなかなか普及しないでしょうから、トラック型で多くの実績がある私たちが有利だと考えています。市場の成長に合わせて適切な営業戦略を展開していければ、ビジネスを大きく広げられるのではないでしょうか」

 ただし、そこには新たな技術課題も生じる。甲斐が言う。
「日本や欧州市場向けに開発した製品は、私たちの技術力を惜しげもなく注いだ最高傑作です。もちろん、今後ももっと高い性能を目指していくつもりですが、一方でアジアなどの新興市場向けには同じ製品でいいのか、再検討する必要があるでしょう」
 対象となる国の経済力を考えれば、低価格製品を新たに開発して市場に投入していく作戦は有効だ。しかしそれが簡単ではないことを甲斐はよく知っている。
「日本の技術者は世界最高の製品を生み出すことに真剣に取り組んできました。それだけに、『耐久性は多少落ちてもいいから安い製品をつくってくれ』と言われても、なかなか順応できないのです」
 海外展開を統括する白石も、この問題については、まだ結論を出しかねている。
「たしかに市場に合わせたスペックの商品を出すことは大事ですが、その一方で、日本のメーカーは性能面で差別化してきたからこそ高い評価を受けているという事実を忘れてはいけません。ですから、ブランドを守りながら市場の特性を考えた事業戦略を展開するという難しい課題に挑戦していかなければならないのです」
 たとえばアジア向け製品はこれまでの豊富な開発ノウハウをベースに、現地で最適な部品をよく吟味して生産することでコストダウンを図るなど、解決方法はいくつかある。
「たくさんの選択肢を用意し、そこから最適な解を選んでいくのがもっともいい方法なのでしょう。そのためにはメンバーみんなが事業を育てていくという意識をもち、遠慮なく意見を言い合える環境でなくてはいけない。幸い、そんな自由な雰囲気にあふれた職場なので、私は絶対に成功すると確信しています」

白石 広志 HIROSHI SHIRAISHI

白石 広志 HIROSHI SHIRAISHI

三菱重工サーマルシステムズ株式会社 輸送冷凍機部 次長 / 1989年入社 / 法学部法律学科卒業

甲斐 政和 MASAKAZU KAI

甲斐 政和 MASAKAZU KAI

三菱重工サーマルシステムズ株式会社 輸送冷凍機部 設計グループ 主席チーム統括 / 2003年入社(キャリア入社) / 工学部機械工学科卒業

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