人の役に立つ実感が喜び──応用数学×IT×システム思考の知見とチームの力で社内DXを最大化
※記載内容は2026年4月時点のものです
大学院での応用数学・流体力学研究を経て「人の役に立つ実感」を求め就職した木村 恵二。国内外の大型プロジェクトや留学経験を積んだ後、2023年にキャリア入社。現在はエンジニア/プロジェクトリード/システムアーキテクトとして社内DXや顧客案件を推進しています。チームの力を重視し、ITでの社会貢献をめざす木村の大規模複雑システムに懸ける想いとは。
1人では早く、みんなでなら遠くへ──現状を正しく把握し、チームで社内DXに挑む
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)のデジタルイノベーション本部(以下、DI本部)で、主席チーム統括として社内のDXや顧客案件を推進する木村。現在、複数のプロジェクトをリードしています。
「三菱重工グループの新事業推進の1つであるパーキング事業では、フランスのパートナー企業からのロボット制御マネジメントシステムの技術移管にあたり、システム構成の把握と最適化技術の理解という2つの観点から携わっています。
パートナーがスタートアップである故、システム全体の挙動はエンジニアの暗黙知となっていました。そこで約1カ月パリに滞在し、CxOやエンジニアとホワイトボードに向き合い、設計思想から各サブシステムのスコープをディスカッションで引き出しました。またマサチューセッツ工科大学の留学で得たシステム分析手法や英語での議論経験をフル活用し、やりがいを感じています」
また、CO₂ 回収大型プラントの見積業務においては、これまでベテランエンジニアに依存していたプラント機器配置の設計業務について、システムでサポートする取り組みも進めています。
「CO₂ 回収プラントは既設設備に隣接して建設されるため、敷地の制約やパイプラインの位置など、お客さまが重視する条件をいかに引き出すかが重要です。
しかし、そのたたき台となる機器配置案の作成は熟練エンジニアの経験に依存していました。そこで私は、単に計算上の最適解を求めるだけでなく、配置案検討業務そのものをDXすべきと考え、ヒアリングを重ねました。
その結果、この業務は検討条件が多く定量化し辛いトレードオフがある一方で、短時間での対応が求められるため、判断結果が残らず暗黙知化しやすい構造だとわかりました。
そこで、最適化技術とITを組み合わせた支援システムを開発しました。コストなどの定量的な比較と、顧客要望のような定性的な情報を合わせて保存できるようにすることで検討時の試行錯誤の効率化を図り、またこのシステムに蓄積された情報を若手が活用して原案を作成できれば、熟練者依存という構造的な問題を解決できます。
最適化などのアルゴリズム開発と同時に、設計業務全体を俯瞰し、UI/UXや実装を担当するメンバと協力して業務のやり方を変えることで、プロジェクトを横断した大きな改善を生んでいきたいと考えています」
数々のプロジェクトで仕事をする上で、木村はある考え方を大切にしていると言います。
「作家G.K.Chestertonの著書『The Thing』に出てくるたとえ話『チェスタトンのフェンス』で、一見不要に見えるフェンスを、何も起こっていないからと撤去したら、野犬が襲ってきてしまった──という一節から、既存の仕組みであっても、その存在意義をしっかりと理解した上で対処すべきという考えです。
私のモットーは『チェスタトンのフェンスを取り除け』であり、スクラップ&ビルドする際にスクラップしていいのか、残すのか。現状を正しく理解し、システムを構築していくことが何より重要だと考えています」
そのほか、木村が重視しているのがチームワーク。「1人だと早く行けるが、みんなでなら遠くまで行ける」を信条として、グループ内での勉強会も主催しています。
「DXを推進するためのソリューション開発には複数の技術分野を融合する必要があり、それぞれの技術分野を得意とするメンバが協力して取り組むことが最も効率が良いと考えます。
グループのメンバはみな優秀であり、DX実現に向け、メンバ間のさらなる相乗効果を期待して勉強会を発足しました。私はファシリテータとして参加者を促し、ディスカッションをリードしています」
インフラで人の役に立つ。国内外で経験を積み、大規模複雑システムに惹かれ三菱重工へ
幅広く自然科学の本を愛読していた父親の影響で、幼い頃から自然科学に親しみ、物理のおもしろさに惹かれた木村。数値計算による物理現象の解明に魅力を感じ、大学院は数理解析研究所に進み、応用数学/流体力学を専攻し、地球流体力学の分野で恒星や惑星内の熱対流パターンを、数値計算を活用して調べる研究に取り組んでいました。
博士課程修了時、アカデミアに残るかどうか悩んだ木村は、自身にとって大切な瞬間に気づきます。
「研究室では、プリンターのトラブルや計算機の使い方などで困っている友達に、私が手助けをすることがありました。また、塾講師のアルバイトを通じて、生徒が受験に合格した喜びを共有したことも。彼らが前に進むと、私も嬉しいんですよね。そんな経験から、人の役に立っていると感じられる時が最も幸せだと気づいたんです」
こうして木村は就職活動を開始。より多くの人の役に立てるインフラシステムに興味を持ち、大手総合電機メーカーへの入社を決意します。2013年の入社後は、海外の鉄道運行管理システムの開発プロジェクトに参画。100人以上のチームで動く大規模なプロジェクトは、アカデミアでの個人作業とはまったく異なる経験となりました。
「大学院では1人でプログラムを書き、仮説を立てて簡易的にテストを行っていましたが、実際の開発現場では大勢の人が協力しながら、非常に綿密な開発とテストを行っていました。こういった開発体制から、チームの大切さ、数理的なものをプロダクト化する際の技術的なパフォーマンスの考慮、プロダクトを納入するプロセスなど、多くのことを学びましたね。何より、数理モデルとして表現したものが実際に列車を動かすことがすごくおもしろくて」
その後、日本の鉄道会社向けに先進的な運行計画変更機能をプロトタイピングし提案するプロジェクトや、イタリア子会社がデンマーク顧客に提供している無人メトロにおいて、人流を考慮した先進的な運行管理機能を提案する合同プロジェクトにも携わりました。
これらのプロジェクトを通じて、プロジェクトマネジャとしての経験や英語での業務経験を積んだ後、マサチューセッツ工科大学(MIT)への留学を果たしました。
「鉄道システムは列車制御の複雑さのみならず、関係部署やステークホルダーが多い大規模で複雑なシステムです。社会的インパクトが大きいシステムは大規模複雑システムにならざるを得ず、一度作ると簡単に修正できません。
この大規模複雑システムをどう設計するか。システム思考をはじめとして、さまざまな選択肢をどう考え、言語化して他の人とコミュニケーションするかという方法論を体系的に学べました」
留学後、いくつかのプロジェクトに参画した木村は、新天地を求めて転職を決意。大規模複雑システムに惹かれて、2023年に三菱重工に入社しました。
「前職でビジネスサイドや営業にも従事しましたがなかなか成果が出ず、また自分の興味関心を振り返っても、やはり自分の貢献ポイントは大規模複雑システムのエンジニアリングであると考えました。MITで大規模複雑システムを勉強する中で三菱重工が提供する製品分野がいくつも例示され、どれもインフラ分野と強く結びつくことから強く興味を持ちました。
三菱重工の製品や三菱重工のDXに貢献することで社会的インパクトが大きい仕事に従事し、また同時にプロジェクトマネジャやシステムアーキテクトとしての経験を深めていければいいなと考えました。
入社前は不安がありましたが、研究開発という立場は前職と似ていて、働き方も大きく変わりませんでした。職場の雰囲気も非常に良く、周りのメンバは優秀で、グループ長や次長、部長も真摯に話を聞いてくれます。いわゆる“三菱重工らしい”仕事を想定していたら、私が好きな応用数学とIT、そしてシステム思考が活用できる仕事をアサインしてくれて。すごく楽しい環境で、働きやすさを感じています」
DI本部が支援できる余地がたくさんある。目の前の仲間の役に立てる挑戦とやりがい
入社から約1カ月後、木村は生成AIをテーマにしたハッカソンの企画・運営に携わることになります。9月に2日間開催し、その後1カ月程度のフォローアップ期間を設けるというものでした。
「イベント開催まで2カ月ほどかけて、部長や次長を巻き込んでの意思決定や、具体的な進め方の検討を行いました。初めてのハッカソンでありイベント設計として2カ月は短いため、私はナンバー2として、プロジェクトリーダーが見きれない細かい課題の拾い上げやステークホルダーとのコミュニケーション、また参加申込者からの質問対応、当日の資料作成・発表など、リーダーと協力してプロジェクト遂行上に必要なことはなんでもやりました」
このハッカソンは社内でも先進的な取り組みとして評価され、新規事業への意欲が高いメンバが多く参加。
「こういったイベントを実施すると、課題意識を持った感度の高い人材が社内から自然と集まり、その後のコミュニケーションもとてもしやすくなります。各事業所のキーマンや周囲から信頼されている人材も多く、そこから新しい仕事に広がっていくこともありました」
イベントの企画・運営を通じて、木村自身も組織についての重要な学びを得ることができたと振り返ります。
「論理的な説明と落とし所をしっかりと示せば、上司は私たちの話に真摯に耳を傾けてくれるんだと実感できました。入社してすぐのタイミングで、こういった経験を通して組織への信頼感が深まったことは良かったと感じますね」
社内のIT活用を推進する現在の業務のやりがいを、木村はこう語ります。
「三菱重工のIT分野はまだまだ私たちDI本部が支援できる余地がたくさんあります。たとえば、プラント建設では二次元CADを利用して設計作業を行っていますが、それを自動化し、数理最適化やAIなどの先端技術を導入して最適化を図ることで業務を効率化できます。
社内の人たちというユーザーが目の前にいる状況で、新たなシステムを提供することでみんなの仕事が楽になる。それを実感しながら進められることに最もやりがいを感じます。
担当しているプロジェクトは息の長いプロジェクトでありまだ進行中ですが、『良い結果が出ているね』など、日々ポジティブなフィードバックをもらっています。また担当するプロジェクトの関係者から別の業務課題について相談を受けるなど、信頼を得て仕事の幅を広げています」
ITやシステムをいかに効果的に組み込むか。肌感覚を磨き大規模プロジェクトをリード
木村は、自身が今後めざすビジョンについて、プラント建設のDXなどの大規模プロジェクトを率いていける人材になることだと話します。
「応用数学・IT・システム思考を活用して、いかに現実的な落とし所を見極めながら、より大きな成果や価値を生み出せるか。その肌感覚を持っていることは自身の強みだと思うので、それをさらに研ぎ澄ませながら、プロジェクトを効果的に推進できる存在になりたいと考えています。
プラント建設では、配管や部材、機器などはすべて外部ベンダーに発注して、それを組み立てていくのが三菱重工の役割。そのため、多くの協力会社とのコミュニケーションや発注管理など、さまざまな調整が重要になります。そこにITをどう組み込んでいくかというのが、今後、私自身が取り組んでいきたい領域です。
大規模プロジェクトは関係者も多く、さまざまな検討が必要になりますが、インフラとしての意味でも、規模が大きい分、より多大な社会貢献ができるという意味でも、自分自身の日々の活動が役に立つ幸せを感じられます。二重の意味でおもしろい仕事なんです。プロジェクトを進めることで社会貢献する、この意味で三菱重工のタグラインであるMOVE THE WORLD FORWARDに共感しています」
多くの人を巻き込んで、チームの力でより大きな課題解決をめざす木村。共に働きたい人材像として、3つの要素を挙げます。
「1つめは、高い専門性を身につけていること、また身につけようと日々努力すること。チームの中で自分がどのように貢献できるかを明確に持っていることが重要であり、新しいことをやるためには日々出現する技術に貪欲であることが重要です。
2つめは、チームメンバーとして協働できること。プロジェクト全体でタスクが滞りそうな時に自発的にそれを拾えるような、いわゆるサーバント・リーダーシップ(※1)を持った人にはとても魅力を感じます。
3つめは、パッション。人の役に立ちたいという気持ちが、常にプロジェクトを前に進めるための私の原動力となっています。原動力は十人十色と思いますが、自分がこのプロジェクトを前に進めるんだと一人称で仕事をする人との仕事は本当におもしろいです。
私も少しでもこのような人材に近づければと思って日々研鑽を重ねています。一緒に日々研鑽を積んでくれる方と一緒に働き、大規模プラント設計・建設のDXなどに貢献していきたいですね」
※1 奉仕精神にもとづき、対話を重視しながらチームを導くリーダーシップ